【恋愛】しょっちゅう家に押しかけてくる幼馴染が俺の手料理を食べて恋をした
俺の名前は和也、現在高校2年生だ。
高校に通っているのだが、部活はしておらず帰宅部のため学校の授業が終わればすぐに帰宅している。
「和也~、ご飯まだ~??」
俺の部屋のベッドに寝っ転がり、漫画を読みながら声をかけてくる女の子。
この子は幼馴染のあやせ。
親同士が幼馴染であり、近所に住んでいるという事もあって家族ぐるみで仲が良い。
アルバムを見返してみると、俺の記憶には無いのだが保育園時代から気が付いたら一緒に写真に写っていた。
あやせは同じ保育園に通ってはいなかったのだが、あやせの妹や弟が俺と同じ保育園に通っており、運動会などがあると一緒に来ては俺たち家族とご飯を食べていた。
「はいはい、これから作るから少し待ってな」
俺が帰宅部なのは少し事情があって、両親が共働きであり早朝から夜までは不在となるため、俺が家事や料理を担当しているからだ。
「さて、今夜はあやせの好きなサバの味噌煮とサラダ、スープを作るか・・・」
あやせは高校に入ってからというもの、頻繁に俺の家に遊びに来ては夕飯を食べている。
キッチンに立ち食材の仕込みと調理をしていると、俺の部屋でゴロゴロしていたはずのあやせが降りてきた。
「和也、今夜の晩御飯は何を作るの?」
「あぁ、こんやはあやせの好きなサバの味噌煮を作ってるよ、ちょうどサバがあったからね」
「やった!和也ってホントに料理上手でなんでも作れるよね~。」
「まぁ、小学4年生から料理してるからね。母さんに教えてもらったおかげである程度の品なら作ることは出来るよ、最近はもっとレパートリーが欲しくてレシピ本も読み漁ってるし」
そうあやせと談笑しながらも手際よく料理を作っていく。
「ほんと、将来結婚するなら料理上手な旦那さんがいいよね~。毎日おいしい料理が食べれるんだし!」
「俺はお前が料理をするという選択肢を持たないことに感心するとともに、幼馴染として不安すら覚えるぞ・・・。」
料理が好きな俺とは正反対で、料理が大の苦手であるあやせ。
学校での成績はトップクラスで常に1位を取り続けるだけの頭脳と、幼少からのピアノ教室通いや中学時代の吹奏楽部で培った音楽スキル、持ち前の運動神経の良さで周りからはパーフェクトウーマン扱いされているのだが、なぜか料理だけは一向に上達しない、というか勉強をしようとしないためろくに料理を作る事が出来ないのだ。
「ほんとに料理さえできるようになれば完璧なんだがなぁ・・・。」
「いいのいいの~。料理できない分和也が作ってくれるし、ここに来れば食べれるんだから問題なし♪」
「いずれ1人暮らしになった時に後悔すると思うぞ。」
「それに比べて和也はすごいよね、成績もトップクラスだし運動も料理もできるし、まぁ・・・顔はいまいちだけど笑」
「ほっとけ!!!ほら、もうすぐ出来るぞ。」
他愛もない会話をしながら料理をすること約40分、今夜の夕飯が完成した。
両親が帰宅するのはもう少し遅くなるはずだから、俺とあやせで先に食べることに。
「いただきま~す」
あやせはいただきますの直後間髪を入れずに大好きなサバの味噌煮を頬張る。
「う~~~ん、しっかり味が染み込んでてホクホクフワフワで美味しい~!」
あやせは満面の笑みを浮かべながらご飯を頬張っている。
なんやかんや言いながらも、俺は美味しそうにご飯を食べてくれるあやせを見るのが好きだった。
そんな幸せそうなあやせを眺めてから、俺も改めて夕飯を食べる。
「いただきます」
最初にスープを飲んでみる、簡単な卵スープだがとても落ち着く味に仕上がっている、合格点だな。
次に本命のサバの味噌煮を食べてみる。
「うん、今回は調味料とショウガの量もいい感じに決まってる、前回作ったやつよりかは美味しいな」
そんな独り言をつぶやきながら食べる俺を眺めて、あやせが口を開く。
「でもさ、そんなことを言いながらも和也って満足そうな顔をしてないよね。こんなに美味しいのに、何か不満でもあったの?」
さすが幼馴染、顔には出していないつもりだったが今回作った品に俺が満足していないことが分かったようだ。
「うん、美味しいのは美味しいんだけどさ、これをお店で出すとしたらこんなクオリティーでお客さんが満足してくれるんだろうかっていつも考えててさ。あやせの親父さんが作ってくれた料理はもっと深くて、感動さえ覚える味だったから」
そう、あやせの親父さんは料理人であり、俺が料理に目覚めるきっかけを作ってくれた人物でもある。
あやせの親父さんはお店を切り盛りしており、昔から何度も通っているのだが、そこで食べる料理はどれも美味しくて、食べ終わったときには満腹感と幸福感を覚えるほどだった。
その気持ちが忘れられなくて、俺もいつかは料理の道へと進み、あやせの親父さんと同じように料理で人を感動させれるような料理人になりたいと思っている。
「確かにお父さんの料理も美味しいけど、私は和也のだって引けを取らないくらい美味しいと思ってるけどなぁ。うまく言葉には言い表せないけど、和也のご飯からは食べる人を思いやる優しさがあふれてるっていうか・・・私は和也の味、好きだよ?」
いつもは勝手にご飯を食べに上がり込んできておいしいを連呼しながら気が済むまで食べ散らかすだけのあやせが今日はやけに真剣な表情でそう伝えてきた。
「あやせにそんな感想言ってもらえたのは初めてだな。今の言葉は作る立場からするとすごくうれしいよ。」
親以外に初めて料理を褒めてもらえたので、嬉しくもあり少し気恥ずかしかった。
俺は中学のころからあやせに片思いをしていた。
高校に入ってあやせが料理を頻繁に食べに来るようになって、もっと美味しい料理を作ってあやせを喜ばせてあげたいという気持ちが大きくなり、あやせに気づかれないようにこっそりと料理の勉強をしていた。
おかげで中学の時とは格段に腕を上げていたのだが、それでも自分自身を満足させる料理を作る事が出来ずにいて少し心が折れかけていた。
「・・・和也はほんとにすごいよね。うちの学校は進学校だから料理なんて専門で習うことも無いのに、努力してここまで美味しい料理が出来るようになってさ。私なんて学校で習った事をひたすら復習して成績がトップであり続けること以外何のとりえもない。」
「いや、それだけでも十分すごいやつなんだが・・・」
「ううん、こんな程度じゃ和也には釣り合わないし、勝ててもいないよ。だって和也はそれ以外のことでこんなに努力をしてちゃんと結果を出してるから。」
いつも天真爛漫なあやせが今日はやけにおとなしい気がするな。
それに、釣り合わないってどういう事なんだろうか。成績ではあやせが1位、俺が常に2位だから俺に勝ってるんだし、容姿もよくて才色兼備なすごいやつとしか思えないんだが・・・。
「私ね、ずっと和也のことが好きだったの。いえ、今も大好き。だから、和也のそばにいても恥ずかしくない女の子でいようと思って勉強とかを頑張ってきたの」
「へぁ!???!?」
突然のあやせの告白に俺は思わず変な声を出してしまった。
しかし、そんなクル〇ッコみたいな鳴き声の俺をきれいに無視してあやせは続ける。
「中学時代に野球を頑張る姿とか、一緒に生徒会活動を楽しくする姿とかを見て、和也と一緒って楽しいし落ち着くし、野球を頑張る姿カッコいいなぁって思ってた。高校も同じ学校を受験して合格できたのも嬉しかったし、今もこうやって同じ時間を過ごせることがとても幸せなの。」
あやせの告白を聞く俺の顔は、自分でもはっきりとわかるくらい赤くなっていた。
それはあやせも同じだった。
「和也、顔真っ赤だね。笑」
「でもね、私がもっと好きになったのは和也の手料理を食べてからなの」
「俺の手料理・・・?」
「うん、私が初めてご飯を食べに来た日の事、覚えてる?」
そういわれて初めてあやせがうちにご飯を食べに来た日のことを思い返してみる。
忘れもしない、中学3年生の部活動を引退後、生徒会活動で帰宅が遅くなった日の事だ。
確か、文化祭の準備で寒い日に夜遅くなって、あやせの両親がすぐに迎え来れないからってことでウチでご飯を食べて送っていったんだよな。
そんなことを思い返しながら、俺はあやせに返事をした。
「うん、はっきり覚えてるよ。中学3年の時文化祭の準備で帰りが遅くなった日だろ?あやせがうちに来て、俺が晩御飯作るって言って親子丼を作ったんだよな」
「そう。その時初めて和也が家で毎日のように料理をしてるってことを知ったの。和也の作ってくれた親子丼、とても美味しくて暖かくて、優しかった」
あやせ曰く、その時食べた俺の手作り料理が、あやせの中にある俺が好きという感情を一気に爆発させてしまったらしい。
「正直、お父さんの料理をたくさん食べてきた私は、並大抵の料理では美味しいと思う事はあってもそれ以上の感情が出ることはないだろうって思ってた。それくらいお父さんの料理はすごいし、美味しかったから」
「確かに、あやせの親父さんは有名フレンチ店を何件も渡り歩いてきた凄腕だけあって、作る料理はどれも美味しいの域を超えてるからなぁ・・・。あの料理を食べていつか同じようにって思った俺もどうかしてるのかもしれないが」
「でも、和也の親子丼は美味しかったし、確かに優しさを感じたの。食べた人に満足してほしい、美味しく味わって幸せになってほしいっていう和也の優しさがあった」
「それは、あやせに満足してほしかったからな。好きな人に美味しい料理を食べてほしいって思うのは、当然だろ?」
「え?それって・・・・」
「あぁ、俺はあやせが好きだよ。勉強も運動も音楽もできて天真爛漫でいつも楽しそうに笑っててさ。俺はあやせのことがずっと好きだった。初めて親子丼を食べてもらったときのあやせの本当に美味しそうな顔は今でもしっかりと覚えてるよ。それで、あやせにもっともっと美味しい料理を食べさせてあげたいと思って、そこからまた料理の勉強を必死に始めたんだ。それは料理人になりたいっていう夢をかなえるためでもあったんだけど、あやせの美味しくご飯を食べる幸せそうな顔がもっと見たいと思ったからさ」
俺はこれまで心の中でいただいていたあやせへの思いを口にした。
あやせは俺の言葉を聞いて目に涙を浮かべている。
俺はそのまま言葉をつづけた。
「あやせ、君のことが好きだ。俺と付き合ってくれないか?」
「私、和也みたいに料理できないよ?そんな私で本当にいいの?」
「料理ならこれからいつでも教えてやるさ。料理が出来るかできないかなんて関係ないよ。俺はあやせが好きなんだからさ」
「うれしい・・・。私でよければ是非お願いします」
あやせは涙を流しながらも満面の笑みを浮かべて俺に頭を下げた。
こうして、俺の料理と俺のことが大好きな幼馴染は晴れて俺の恋人となった。
付き合い始めてからの俺たちの日常は大きく変わることはなかったのだが、その中でも唯一変わったことがある。
「和也~、晩御飯まだ~?」
「お前はうちに転がり込んでくるとその言葉を発さなければそれ以外の言葉が出ない呪いにでもかかってるのか?」
「えへへ~、だって和也のご飯は美味しいからさ~」
相変わらずの間延びした声でそう返事するあやせ。
「今夜は少し冷えるからな、シチューとコロッケを作ろうかと思ってる」
「おぉ、今日も美味しそうなメニューですなぁ~。ねえ和也、私も料理手伝っていいかな?」
「もちろんだ、むしろ手伝ってくれると助かる」
「やった!和也と料理するのって楽しいから下手にデート行くより幸せな時間なんだよね~。」
そういいながら俺のタンスからあやせのエプロンを取り出してあやせはエプロンを装着した。
「待て待て待て待て!!なんで俺のタンスの中にお前のエプロンが収納してあるんだ!?!?」
部屋の俺が知らない間にいつの間にかタンスに収納されたエプロン、マジでどうなってんだ・・・?
「この前和也のお母さんに相談したらタンスに入れとけばいいよって言われたから勝手に入れちゃった♪」
「入れちゃった♪じゃねえよ!!はぁ・・・まあいいや」
観念した俺は身支度を済ませたあやせとともにキッチンへ向かう。
告白した後からあやせは料理を勉強してみたいと俺の家に転がり込んでは少しづつではあるが料理を作るようになっていった。
「いつか私の愛がたくさんこもった手料理を和也にごちそうするんだから、楽しみにしててね?」
「あぁ、あの親父さんの血が流れてるあやせの料理だ。楽しみに待ってるよ」
天真爛漫才色兼備な俺の彼女は、今日も元気に料理を作っている。