かっかのSS作成部

このブログはオリジナルのショートストーリー(SS)を作成、公開しています。暇つぶし、息抜きにどうぞ!

【怖い話】肝試し

俺の名前は和也、しがない大学1年生だ。

俺は昔から怖い話やオカルトが大好きで、たまたま入学した大学にオカルト研究会なる怪しいサークルを発見した為、即座に入会した。

 

このサークルで活動するメンバーは少なく、俺を含めて4人しか居ないが、地元にある心霊スポットや曰く付きのスポット、また歴史についてと幅広く取材や調査をしており、活動内容や調査した内容についてブログに掲載している。

 

所属するメンバーは俺と同じ1年の香織さん、2年生の海斗先輩と咲良先輩だ。

 

ある日、いつもの様にメンバーと次の活動について話し合ってると、ブログのコメントに目を通していた咲良先輩が口を開いた。

 

「ねぇ、ブログのコメントに取材依頼が来てるわよ。場所は隣の県にある廃病院みたいだけど、地元では有名な心霊スポットみたいね。」

 

この言葉に海斗先輩が真っ先に反応した。

 

「依頼は有難いけどなぁ〜、俺らって地元専門で活動してるじゃん?場所広げたらそりゃネタには困らないだろうけどさ、いつかカバーしきれなくなるんじゃね?」

 

先輩の言う事も最もだが、オカルト好きな俺としてはとても気になる…どうしたものだろうか。

 

そんな考えにふけっていると、香織さんが口を開いた。

 

「そういえば、もうすぐ夏休みだよね?じゃあ、この廃病院は夏休み特別企画って事にすれば良いんじゃないかな?和也君はどう思う?」

 

香織さんは俺に意見を求めてくると、みんなの視線が俺に集まる。

この様子だと俺の意見で決まるのか。

 

「俺も香織さんに賛成かな。ただ、海斗先輩の言うように地元専門で活動してるのも事実だから、今後同じ様な依頼が増えてきても特別企画で採用するのは俺らで選んだ1件だけにすれば良いと思う。それに、ホラー好きな俺は正直めちゃくちゃ気になるし」

 

そう言い終えると、話を聞いていた咲良先輩が結論を出し、場所も大学から1時間程度と言う事もあり、夏休み特別企画という事で遠征が決定した。

 

数日後、いよいよ廃病院肝試し当日となり俺たちは海斗先輩の運転する車に乗り込み、現地へと向かった。

 

事前に所有者への立ち入りと取材許可は取れており、見取り図を基に探索経路も伝えて了承は得ていた。

道中では簡単に役割を担当してそれ以外は雑談をして過ごしていると、あっという間に目的地へ到着した。

 

時刻は午後8時を過ぎたところだが、満月と言うこともあり比較的見通しは良かった。

 

「なんか、想像以上に不気味だね…」

咲良先輩が廃病院を見て、そう呟く。

満月に映し出された廃病院は、より一層の不気味さを醸し出しており、入るのを躊躇うくらいだ。

 

底知れぬ恐怖を感じるままに、確実ライトやカメラなどの準備を済ませて入り口の前に立っていた。

病院は3階建てとなっていた為、2人ずつの2チームに別れて探索をする事に。

咲良先輩、俺チームは階段を登り3階から、香織さん海斗先輩チームは1階から探索をして、逐一状況報告出来るように咲良先輩と海斗先輩のスマホで通話をしながらの探索となった。

 

俺達はまず階段を登り、スタート地点の3階へと向かった。

「こっちはスタート地点に到着したわ、カメラもライトもオッケーよ。海斗、そっちはどうかしら?」

 

「こっちもオッケーだ、それじゃあ、2階でまた合流な。何かあったらすぐ行くから連絡くれ。」

 

海斗先輩の合図と共に探索がスタートした。

 

「外からの雰囲気は不気味でしたけど、中は意外と怖くないと言うか、なんか落ち着きませんか?」

 

3階は病室が並んでいるだけだからであろうか、入り口で感じた恐怖感は無く、居心地が良いとさえ感じた。

 

「和也君、本気で言ってるの?私は早くここを出たいとしか思わないわ。さっきから誰かに見られてる様な気配もするし。」

 

咲良先輩がそう言った直後、コツコツと誰かが歩く様な気配を感じた。

「先輩、足音が聞こえます。もしかして海斗先輩達もう来たんですかね?」

確かに聞こえた足音は咲良先輩にも聞こえていた様で、すぐ様海斗先輩に確認する。

 

「海斗、貴方達もう3階に上がってきたの?」

そう聞くや否や、海斗先輩からは予想外の答えが返ってくる。

 

「いや、俺達はまだ1階の診察室に入ったところだぞ。それよか、お前ら誰といるんだ?」

この質問に俺と咲良先輩は首を傾げる。

 

「誰とって、私は和也君と居るだけよ?いきなりどうしたのよ?」

「いやだからさ、その横にいる和也は誰と話してるんだ?誰か他に居たのか?」

 

何やら話が噛み合わない。

「海斗先輩、俺誰とも話してないですよ?」

「え?」

 

どうやら海斗先輩が言うには、探索をスタートしてからしばらくした後に俺が誰かとずっと話している声が聞こえたと言うのだ。

スマホをスピーカーにしていたので香織さんにも聞こえていたと言う。

 

だが、俺は確実に咲良先輩としか話していないし独り言も言ってはいない。

最初は海斗先輩のいつものジョークかと深く考えない様にした。

 

その後、特にこれといったトラブルもなく、最後のトリとなる地下室へ全員で向かう。

寄せられた情報では地下室が1番有名なスポットであり、最も心霊現象や恐怖体験が多い場所であるとの事。

 

「私、入りたくないかも。」

地下室が近づくなり、香織さんが口を開く。

確かに、ここの雰囲気だけは明らかに他と違う。

まるで人を拒絶するかの様な気配を感じた。

 

「でも、調査に来た以上行くしかないわ。ただし、危険と判断したらすぐに出るからそのつもりでいてね?」

咲良先輩はニコッと笑いそう香織さんに告げ、安心させるためにギュッと手を繋いでいた。

 

なんて頼りになる先輩だろうかと感心していたら、海斗先輩が口を開く。

「なあ和也、俺達も手を繋いだ方が良いのか?」

その言葉に全員から冷たく向けられる視線、良い雰囲気が台無しだ。

 

ニヤけてふざける海斗先輩は咲良先輩によって先頭に立たされ、俺達は地下室の奥へと進む。

各部屋で写真を撮影しながら進んでいた時だ。

前方から、コツコツと3階で聞いた様な足音が聞こえ、俺達は立ち止まる。

 

「おい、今足音が聞こえたぞ。」

先頭を歩いていた海斗先輩含め、全員足音を聞いていた。

しかし、足音はすぐに消え他に気配もない事から俺達は慎重に探索を進める事にした。

 

最後の部屋の前で立ち止まる俺達。

「ここが最後の部屋か、みんな覚悟はいいか?」

海斗先輩の問いに頷き、みんなは部屋に足を踏み入れる。

俺はふと何の部屋か気になり、扉に隠れていた部屋の名前を見てゾッとした。

霊安室…」

 

全身の鳥肌が立つのを感じたが、みんなと離れてはぐれてはいけないと後を追った。

 

探索や写真撮影を一通り終えて戻ろうとした時、海斗先輩が叫ぶ。

「おい咲良、香織ちゃんはどうした?」

「いきなり何よ、香織ちゃんなら手を繋いで…あれ?香織ちゃん?」

 

いつの間にか香織さんが居なくなってる。

「馬鹿野郎、なんで手を離したんだよ!」

「違う、今の今までずっと手は握ってたのよ!」

食い違う海斗先輩と咲良先輩の会話。

いや、そもそもいきなり居なくなったなら何故俺は気付かなかった?

俺は3人が見える1番後ろ位にいたし、目を離したとしてもほんの一瞬、その間に何処か行ったなら嫌でもわかるはずだ。

何より、香織さんはいつから居ないんだ?

 

「とにかく、香織ちゃんを探すぞ!」

その言葉にハッと我に返り、俺達は各部屋を回りながら香織さんを探すが、どこにも居ない。

 

「ここにも居なかったわ…。」

最後の部屋を確認した咲良先輩から返答がくる。

ホントにどこに行ったんだ…

その時、コツコツと鳴り響く足音、その直後、1番奥の部屋からキャーと言う叫び声が聞こえた。

「香織ちゃん!?」

そう叫びながら真っ先に駆け出したのは咲良先輩。

俺達も不気味な足音に恐怖しながらも咲良先輩の後を追った。

 

霊安室に戻ると、端っこで疼くまり泣いている香織さんを咲良先輩が抱き締めていた。

「香織さん、何があったの?」

そう尋ねると、香織さんは泣きながらも怒った強い口調で俺達に言い放つ。

「こんな場所にいきなり1人置き去りにするなんて酷いじゃないですか!!足音聞こえたと思ったらいきなり扉閉まって開かないし誰かに掴まれるし、最悪ですよ!!」

 

咲良先輩が宥めるもかなり怖かったであろう香織さんは俺たちにキッと厳しい目線を向ける。

 

「香織ちゃん、あなたずっとこの部屋に居たの?」

「えぇ、ちゃんとみんなと居ましたよ。私カメラ担当だから咲良先輩が手を離したタイミングで部屋をぐるっと動画で撮影したんです。

それで振り返ったら誰も居なくて…」

 

どう言う事だ?

俺達が遭遇した場面と同じタイミングで香織さんは全く別の事を話してる。

 

とりあえず、ここに居ても埒が開かないと俺達は車へ戻る事にした。

帰りの車の中で落ち着きを取り戻した香織さんは再度状況を説明するが、内容は同じだった。

 

説明を終えた香織さんに、咲良先輩が俺たちの状況を改めて説明した。

香織さんが突然居なくなり最後の部屋を含めて探し回った事、足音の後に叫び声を聞いて駆け足で戻って香織さんを発見した事。

あまりに食い違う話に香織さんは疑問を抱いていた。

置き去りドッキリされたと言う印象があったのだろう。

 

後日、俺達は香織さんが撮影した動画と、最後尾で俺が撮影した動画を見比べた。

 

俺の動画には最後の部屋を全員で探索した後、海斗先輩が叫ぶ様子や探し回る様子が映されており、俺達の話が事実である事を物語っていた。

 

俺が撮影した動画を視聴し終え、次は香織さんが撮影した動画を視聴する。

当然ながら冒頭から中盤付近は画角こそ違えど俺が撮影したものと同じシーンだ。

 

しかし、そんな動画でも香織さんの撮影したものは、俺達が明らかに違和感を感じる程おかしかったのだ。

 

所々で入っている呻き声や足音、そのタイミングで写り込むノイズやオーブの様な浮遊物、同じ場面を撮影したとは思えない程違いがあった。

 

そして、問題のシーンがやって来た。

香織さんが部屋を一周撮影し、俺達が居た方を映すと、誰も居ない。

動画の中ではあれ?やみんな、どこ?と言った不安そうな香織さんの声が響くだけで、俺たちの姿はどこにもない。

すると、コツコツとまた足音が聞こえ、その音に反応した香織さんは咲良先輩?と声をかけるが返事は無い。

 

その直後、砂嵐の様な大きなノイズが一瞬入った瞬間に、男性の呻き声の様な音が入っているのだ。

しかし、撮影した香織さんはパニックになっていたのかこうなっていたことに気付かなかったと言う。

 

すると突然、バタンと大きな音がなり響き入り口の扉が閉まった。

さらにパニックになる香織さんに追い討ちをかける様に、先程動画に入っていた呻き声が更に大きく入っており、香織さんにも聴こえていたのか立ちすくむ。

 

その後、ドンドンドンと入り口の扉を強く叩く音で恐怖がマックスになった香織さんはキャーと叫びうずくまる。

 

嫌、触らないで!と更にパニックになる動画の中の香織さんはカメラを床に落としてしまう。

そのカメラが捉えた香織さんの状況に俺達はゾッとした。

 

そこには、カメラの前でうずくまる香織さんに群がる多数の手と、恨めしそうに見つめる複数の顔が写っていた。

 

直後、バン!と大きな音がして咲良先輩が香織さんに駆け寄り抱きしめる様子が映し出され、カメラはバッテリーが切れたのか動画は終わった。

 

「なんだよこれ…」

俺は見終えると同時に冷や汗をかきながらボソリつぶやいた。

香織さんは真っ青になり震えて、咲良先輩が抱き締めている。

 

そこで、1人冷静な海斗先輩がふと呟く。

「咲良はいなくなった時まで手を繋いでたんだろ?」

「えぇ、確かに手を繋いでた感触はあったし、離していたら流石に分かるはずだけど…」

確かに当日もそんなことを話してたっけ。

 

「でも、香織ちゃんの動画だと部屋に入ってすぐに手を離してたよな?」

そう言いながら俺の動画を再度見返す海斗先輩。

 

そこには、確かに手を繋ぐ咲良先輩の手元が一瞬だがしっかりと撮影されていた。

しかし、この時香織さんは辺りを撮影していたのだ。

 

「咲良、一体誰と手を繋いでたんだ…?」

 

この後俺達は調査した記事をまとめてブログに動画と共にアップした。

記事は好評であり、コメント欄でも考察する人やフェイクだと批判する人、多数の意見が争っていた。

 

あそこには何かがある、俺はそう確信している。

何故なら、俺達は実際にその場面に遭遇してしまったのだから。

 

後日談

俺達はブログのアップを終えた後、しっかりとお祓いをしてもらい、今も元気に活動している。

 

香織さんも数日は元気がない様子だったが、今ではすっかり元気を取り戻している。

あんな怖い思いしたらもう懲り懲りだろと思うだろうが、俺達はオカルト研究会だ。

次なる調査対象を選ぶべく、今日も仲良く4人で活動している。

 

【恋愛】チョコの送り主

俺の名前は和也。

地元の高校に通ういたって普通の17歳、探偵だ。

・・・いや、探偵というのは噓だから忘れてくれ。

 

俺には高校から仲良くなった海斗という友人がいる。

家は離れているが帰る方角が同じでクラスも同じという事もあり、

今では親友と呼べるほどに仲がいい。

それともう1人別に、厄介な存在がいる。

「せんぱぁ~い。今日もデートしてくれないんですかぁ?」

「毎日来ても返事は変わらん。だが断る!」

「こんな美少女のお誘いを毎日断るなんて・・・まさか、ホm(ry」

「おい、ぶっ飛ばすぞ。」

 

この間延びした特徴的な話し方でデートにひたすら誘ってくるのは、1学年下の後輩、愛梨だ。

学科が同じという事もあり、上級生が後輩の授業に出張して授業の補佐をするという実習があるのだが、初めての実習の際に愛梨たちのグループを担当してからというものこのありさまだ。

 

「愛梨ちゃ~ん、こんなぶっきらぼうほっといて俺とデートしようよ~。」

「カスに用はありません」

「(´・ω・`)」

隣を歩く海斗が愛梨に言葉をかけるもあっけなく玉砕、骨はそこら辺の犬に配って回るから成仏してクレメンス。

どちらかと言えば俺より海斗のほうが顔もよければスタイルもいい、おまけに話を盛り上げるのも上手だというのに愛梨はなぜか海斗が気に食わないようだ。

 

「恋敵は滅ぼすまでです!」

「いやまて、それはおかしい」

理由は分からなかったが今分かった。

そして違う。

 

「和也先輩は私のものになるんですぅ!」

「ふっ、俺と和也の絆をそう簡単に引き裂けると思うなよ?俺たちは、同じ布団で寝た仲だぞ?」

「いや、言い方ぁ!!修学旅行で同じ部屋だっただけだろうが!!」

「なん・・・だと・・・?」

膝をついて崩れ落ちる愛梨、もうお前ら勝手にやってくれ。

 

俺は勝手に校門前でバトルを繰り広げる2人を放置して帰宅した。

 

後日、バレンタインを翌日に控えた日の下校中、

「今年こそはチョコ貰いてぇ!!」

「うるせえなぁ~。」

「なんだよ~、明日はバレンタインだろ?そりゃワクワクもするさ!おらワクワクすっぞ!!」

「おいやめろ」

今年こそはチョコをと声高らかに願う海斗。

こいつ顔はいいのになぜかチョコを貰ったことがない。

「なぁ和也、なんで俺ってチョコ貰えないんだ?」

突然冷静になった海斗が訪ねてきた。ふむ、親友としてきちんと答えるべきだろう。

「馬鹿だからだろ」

「うっほ、マジか!?」

そういうとこだ、馬鹿野郎。

海斗は黙ってたらイケメンなのだが口を開けば残念な知能指数が露呈するためモテない。

ここまで来ると可哀そうだが来世に期待してもらうとしよう。

 

俺はギャアギャアうるさい海斗をあしらいながらもともに帰宅した。

そういえば、今日は珍しく愛梨が絡んでこなかったな。

いきなりなくなると寂しいもんだが、たまには静かな日常も悪くない。

 

翌日、よほどバレンタインが楽しみなのか、海斗はいつもより15分も早く俺の家に来た。

「和也ー、早く学校行こうぜー!」

朝から元気な奴だ。

苦笑いを浮かべる母さんに行ってきますとあいさつを交わし、俺は玄関を出る。

きらきらと爽やかな笑顔を浮かべている海斗、俺はふと違和感に気付く。

「おまえ、香水変えた?」

いつもと違う香水の香りがしてきたことに気付いた俺は海斗に尋ねた。

「さすが親友、気づくのが早いなぁ。今日の為に有り金はたいてお高い香水を買ってきたんだ!」

こいつはよほどチョコが欲しいのか。

そこまでするとは、恐ろしい行動力。

「お前の思い切りの良さには感心するよ。」

俺はあきれ顔で海斗に言う。

「おっと、俺に惚れるなよ?男には興味ないんでね。」

訂正、こいつやっぱり馬鹿だ。

 

通常の3倍テンションが高い海斗とともにいつもの通学路を歩いていく。

こいつのテンションがまだ高くなることに正直びっくりだ。

道行く女子高生は誰にチョコを渡すだの、友チョコ交換会どこでするだのと、チョコの話題で盛り上がっている。

今は友チョコなるものがあるんだから、女子も大変だな。

そんな会話に聞き耳を立て、ニヤける海斗、気持ち悪い。

「キモチワルイ。」

「ん?何か言ったか?」

「ナンデモナイヨ」

「どうした、急に片言になって?あ、もしかしてお前も冷静なふりして実はチョコにチョコっと期待してるんだろ~?」

「殴っていいか?」

ニヤケながらしょうもないダジャレをぶっ放す海斗に殺意を抱きつつも、俺たちは学校に到着した。

靴を履き替えようと靴箱を開けたところ、靴箱の上段に何か入ってることを確認する。

「なんだこれ?」

「どうした~?」

一向に靴を履き替えようとしない俺に気付いた海斗が近づいてくる。

「おい、これチョコじゃねぇの?」

「形とかからしてその可能性はあるな。」

「なんで和也に!!俺の靴箱にはクモの抜け殻しか入ってなかったってのに!!」

チョコと真逆のものが入っていることはスルーして、俺は謎の箱を眺める。

「差出人が誰か全く分からないんだが。」

「裏に何か書いてたりしないのか?」

「いや、和也さんへと書いてあるばかりで差出人は何も書いてない。」

「なんじゃそりゃ。」

とりあえず放置するわけにはいかないのでカバンに入れて教室へ向かう。

教室に到着し自分の席に着いた時、机の中に何か入っていることを確認した。

「手紙?」

どうやら今度は手紙のようだ。

表には俺の名前が書いてあるが、こっちも差出人は分からない。

俺は手紙をこっそり読んでみる。

「和也さんへ。靴箱にチョコレートを入れたのは私です。この手紙も入れました。直接手渡せなくてごめんなさい。差出人が気になるのであれば、昼休みに北校舎の屋上へ来てください。待っています。」

 

さすがにここまでされて差出人を無視するわけにはいかない。

俺は昼休みに北校舎の屋上へ向かう事にした。

昼休み、海斗からの食堂への誘いを断り俺は北校舎の屋上へ向かった。

相手がだれであれお礼くらいは言わなければ。

俺は北校舎の屋上へ出る扉を開けた。

「・・・来てくれたんですね、先輩。」

「プレゼントと手紙の差出人はお前か、愛梨。」

「はい、私が入れました。もちろん、送り主も私です。」

「愛梨ならいつもの調子で直接渡すと思っていたから、ちょっと予想外だな。

 それにしても、なんでこの場所なんだ?」

 

「1学期の先輩の出張授業の後、ここで初めてお話したことを覚えてますか?」

あぁ、そんなこともあったな。

俺は考え事があるとよくここに来ていた。

あの日も出張授業後の昼休みにこの場所に来たら、1人落ち込む愛梨がいたんだっけ。

「懐かしいな。授業内容がよくわからないって落ち込んでたんだっけ?」

「はい、落ち込んでるときに先輩が来て、私の話を聞いてくれました。」

そうだった。専門教科の内容が分からずに落ち込む愛梨に俺が1年の時に授業で取ったノートを基にアドバイスしたんだっけ。

「俺もあの教科はほんとに苦手で、ノートをしっかり取っては家で散々復習したって話もしたんだっけ。」

「はい、授業中の先輩からは苦手な雰囲気無くて、その話を聞いたときにびっくりしました。」

愛梨は俺の目をしっかりと見つめ、

「先輩、あの時に教えてくれてほんとにありがとうございました。」

深々とお辞儀をしてお礼を言った。

「いつもの愛梨らしくないな、どうしたんだ?」

俺はいつもと雰囲気の違う愛梨に少しドキドキしながらも、何か悩みがあるのではないかと尋ねた。

「悩みではなくて、先輩に伝えたいことがあってここに来てもらいました。」

「伝えたい事?」

「先輩、私とデートしてください!」

「いつも言ってるだろ。だがことw(ry・・・」

いつもの調子で断ろうとしたときに俺は気づいた。

彼女の目が本気であることに。

「先輩、勉強を教えてもらった日から先輩のことが好きです。この言葉に嘘偽りはありません。今日のチョコだって本命です。」

愛梨は真剣な目をしながらも不安そうに、そして緊張からか少し震えていた。

彼女は勇気を振り絞って思いを告白してくれた。

ならば、俺もきちんと答えなければならない。

「俺は、愛梨のデートの誘いがほんとは嬉しかった。こんなぶっきらぼうな俺に毎日明るく接してくれて、笑顔で話してくれる愛梨が気になっていた。それと同時に、俺が愛梨に思いを伝えていいのかっていう不安もあった。明るい愛梨にならもっといい人がいてその人のほうが愛梨を幸せにしてくれるんじゃないかって。俺は自分の気持ちを押し殺してた。でも、今日の愛梨を見てそんなのダメだって思ったよ。それに、ここ数日愛梨がいなかったのが寂しかったし。愛梨、俺は君が好きだ。チョコレートと手紙、そして気持ちを伝えてくれてありがとう。こんな俺でよければ、付き合ってくれないか?」

 

「ふふっ、せんぱぁい、告白が遅いです~。でも、ありがとうございます。私を先輩の彼女にしてください。」

愛梨は緊張がほぐれたのか目には涙を浮かべていた。

だが、彼女の表情は満足した満面の笑みであった。

「えへへ、今日から先輩の彼女・・・、デートはもう断れませんね?」

小悪魔的な笑みを浮かべながらいたずらっぽく俺に聞いてくる。

全く、この生意気彼女はどこまでも俺をおちょくらなければ気が済まないらしい。

ならば・・・。

俺はゆっくり愛梨に歩み寄り、そっと優しく抱きしめた。

「せせせせ、先輩!?」

突然のことに驚き慌てふためく愛梨。こういうとこが可愛くて好きなんだよ、畜生。

「もちろん、断るわけないだろ?」

「・・・はい////」

 

放課後、

「せんぱぁ~い、デートしましょう!」

「馬鹿め、俺がいる以上貴様と和也のデートは叶わなi「いいぞ、行くか」

「えっ??」

俺のいつもとは違う返事に驚愕する海斗。

「へっへ~ん、今日から先輩は私のものですぅ!どこぞの馬の骨は渡しません!」

俺の腕にしがみつき海斗に向かいべ~ッと下を出し威嚇する愛梨。

「ば・・・・ばかな・・・・」

前回とは立場が逆転し崩れ落ちる海斗。

え、なに?この茶番もしかしてずっと続くの?

「さ、先輩行きましょ♪」

「分かった分かった、引っ張るなって!」

崩れ落ちる海斗を他所に愛梨は俺の腕を引っ張っていく。

「・・・やっとくっついたか。和也、カワイイ彼女を大切にしてやれ。」

歩き立ち去る俺達に向かい、聞こえない独り言で祝福する海斗。

 

そんな海斗にカワイイ彼女が出来るのは、また別のお話。

 

【スカッと】やたらと絡んでくるうざい同僚を趣味で返り討ちにした

俺の名前は和也。

IT企業に勤める会社員だ。

入社3年目でようやく仕事を覚えてきた俺にはある悩みがある。

それは・・・。

 

「おい、和也。この資料やっといてくれよ。」

今話しかけてきた同僚、浩史の事だ。

「お前の担当だろ、自分でしっかりやれよな。」

俺は浩史から投げ出された資料を突き返す。

「おいおい、社長息子の俺に口答えするのかよ?親父に言いつけるぞ。」

そう、浩史は社長息子であり、将来的にはこの会社を背負っていくだろう人物だ。

なのだが、それをいいことに社内では我が物顔でやりたい放題。

社長息子という事もあり上司もうかつに口を出せないでいたのだ。

 

「じゃあ、俺は帰るから明日までにそれ宜しくなぁ」

そういいながら資料を俺のデスクに放り投げ、手をひらひら振りながら去っていった。

「あの野郎・・・何々、ってこれ明日の会議で使うやつじゃないか!」

あいつ、寄りにもよってとんでもないものを投げつけてきたものだぜ。

ため息をつきながらも俺は仕方なしに資料を作成した。

 

「やっと終わった~、もうこんな時間じゃないか。」

気が付けば夜の10時過ぎ、必死で資料を作ったおかげで何とか作り終える事が出来たのだが、予想よりも遅い時間になってしまった。

「はあ、帰ったら週末のサバゲーに向けて銃のメンテナンスをしたかったんだがなぁ。」

独り言をつぶやきながら俺はオフィスを後にする。

 

陰キャである俺の数少ない趣味はサバイバルゲーム、週末に時間があれば近くにあるサバイバルゲームフィールドに訪れては楽しんでいた。

最初は1人で飛び込んだサバゲーの世界だが、フィールドのオーナーや常連さんのおかげで楽しさを知り、いつしかのめり込んでいた。

サバゲーのおかげで友人もでき、今ではゲームを楽しむ傍らで休憩中に仕事の愚痴なんかを言ったりととても楽しい時間を過ごしている。

 

帰宅した俺はシャワーを浴び軽く食事を済ませる。

銃のメンテナンスは出来ないが、週末が楽しみすぎて気が付けば銃を手に取り抱きしめながら拭きあげていた。

うむ、我ながら変態だな。

 

愛銃をピカピカにして少し満足したので俺は床に就くことにした。

 

翌日

「よう和也、昨日の資料できてるか?」

朝一で浩史がニヤニヤしながら近づいてくる、正直殴りたいぐらい腹立つ。

「あぁ、何とか終わらせたよ。」

「サンキューな」

浩史にしては珍しくお礼を言ってくるではないか、もしかして週末は雨か?

「そういえば、和也サバゲーが趣味だって?」

資料を確認しながら浩史は聞いてくる。どこからその情報を得たのやら。

「そうだな。今週末も行こうと考えているところだった。」

「そのサバゲー、俺達も連れて行けよ。」

なんと、浩史がサバゲーに連れて行けというではないか。

「いきなりどうしたんだ、サバゲーなんてしたことあるのか?」

俺は突然の申し出に驚いた。

「いや、サバゲーなんてしたことはねぇよ。」

「じゃあなんでまたいきなりサバゲーなんか行こうと思ったんだ?」

「いやな、俺バトルロワイヤルゲーム結構やりこんでてるからサバゲーでも強いだろうと思ってな。だから社内でバトロワしてるメンバーを集めてサバゲー行こうと計画したんだ。」

「そりゃあ構わないが、ゲームとサバゲー結構違うからそう簡単にいかないぞ?」

俺もバトロワゲームは暇なときにプレイしているのである程度知っているが、だからと言ってサバゲーが強いとはならない。

「は、言ってろ。お前をぎゃふんと言わせてやるよ。」

「わかった、じゃあこの場所にサバゲーフィールドがあるから当日朝9時に来るといいよ。装備は持ってないんだろ?」

「持ってないな。もしかして、装備なければ言っても無駄なのか?」

「いや、レンタルがあるから大丈夫だが予約が必要なんだよ。人数を教えてくれ。」

「10人で行くことになってる。予約はお前に任せたぞ。」

「分かった。俺から予約しとくよ。」

どうやら本当に来るようだ。

浩史はいう事を伝えると資料を持って立ち去って行った。

 

そして日曜日、浩史たちは集合時間ぴったりに来ていた。

俺達常連組が先に受付を済ませてから自前の装備の準備や弾速の測定をする。

浩史たちは初めての為銃の扱いから基本的なルール、注意事項を聞いている。

 

ゲーム開始前にチーム分けをすることになった。

「俺たちはこのメンバーでやらせてくれ。」

浩史たちは自慢げな顔をしている。

どうやら連れてきたメンバーでチームを組みたいようだ。

幸いにも俺達常連組も10人、チーム分けに支障はなかった。

「ゲーム高ランクの俺達でお前たちをボコボコにしてサバゲーがちょろいことを証明してやるぜ。」

声高らかにそう宣言する浩史、ニヤニヤしている取り巻き達。

それを見た常連は火が付いたのか、ニコニコしてがんばれと言っているが目が笑っていなかった。

浩史たちは知らないのだ。

このフィールドにいるサバゲーマーが全国クラスの猛者であることを。

 

いよいよゲームが始まる。

通常のサバゲーであれば自分の体や銃などに弾が1発でも当たれば死亡扱い、復帰することは出来ない。

だが、今回のゲームはカウンター戦。

お互いの陣地にカウンターが置いてあり、弾が当たり死亡したプレイヤーはカウンターの数字を1つ増やすと復活する事が出来る。

制限時間内に敵のカウンターが味方のカウンターより多ければ勝利となる。

 

ゲームルール説明の後、各チームの陣地に分かれて装備やゴーグルの最終確認が行われた後、ゲーム開始のホイッスルが鳴った。

このフィールドは森の中にあり、左右は森、中央は大量のバリケードエリアとなっている。

常連チームはスナイパーが森へ、アサルトライフルサブマシンガン装備の人はバリケードエリアで迎え撃つことになった。

ちなみに、サバゲーで使用する銃ではスナイパーライフルだからと言って他の銃と弾の飛距離が大きく変わることはない。

しかし、射撃音が静かであり位置を特定されにくいというメリットがある。

デメリットは連射が利かないため位置を特定されて集中砲火を食らったら成す術がなくなるという点だ。

 

俺はアサルトライフルだが、バリケードエリアにはいかず森に入りスナイパーの援護をすることにした。

森の中をある程度進んだところで敵を偵察する。

どうやら敵は森にほとんどの人員を割き、バリケードは手薄なようだった。

だが、それが命取りだ。

浩史たちは次々とスナイパーに撃ち抜かれていく。

森は厄介だと判断したのか次はバリケードに進み始めた。

数名森に入ろうとしてきたので俺は射撃をして森に入らないように威嚇、隠れきれてない敵は撃破していく。

次第に森のスナイパーも浩史たちを包囲するように位置取り、敵は完全に陣地とバリケードの間でくぎ付け状態となってしまった。

 

「こんなはずじゃねぇ、こんなの聞いてねぇ!!」

必死になって叫ぶ浩史の声が聞こえる、いい気味だ。

「おい、浩史どうすんだよ?なんか作戦ねえのか?」

「うるせぇ、言ってる暇あるなら撃ち返せよ!!」

とうとう、どうにもならなくなった浩史たちは仲間割れを始めてしまった。

 

あっという間にゲームは終了、3対45という圧倒的な差をつけて常連チームの勝利となった。

 

「なんでだよ、ゲームじゃこんなことにならねぇのに」

すっかり落ち込んでいる浩史たちチーム、どうやらサバゲーの難しさを思い知ったようだ。

「どうだ?ゲームとは全然違うだろ?」

いたたまれなくなった俺は浩史たちに声をかける。

「悔しいが、お前の言うとおりだった。悪かったよ、いろいろと・・・。」

浩史は懲りたようで素直に謝ってきた。

「分かってくれたならよかった。けどな、俺たちはせっかく来てもらった浩史たちにもサバゲーを楽しんでほしいと思ってるんだ。どうだ?チーム編成考え直して楽しんでみないか?」

「いいのか?散々馬鹿にした俺達だぞ?」

「誰にでも思い込みはあるもんだ。だからって責めたって何にもメリットはないだろ?俺は純粋にサバゲーを楽しみたいんだよ。ここにいる人たちもな。それに、サバゲーしている人はまだまだ少なくてさ、1人でも多くの人にサバゲーの楽しさを知ってほしいって願いも持ってるんだ。」

俺の正直な気持ちを聞いていた常連やオーナーさんもうんうんと笑顔でうなずいている。

「ありがとう、俺達も純粋にサバゲー楽しみたいと思ってきたよ。」

 

その後、俺たちは何度かチーム編成を変更しながら様々なルールで思い切りサバゲーを楽しんだ。

この雰囲気にすっかりテンションが上がったオーナーが提案したド畜生なスパイ戦までは・・・。

 

スパイ戦、それは味方の中に敵が指名したスパイが数名潜んでおり、オーナーの行動開始の合図とともに内部から撃破されていくという恐怖のゲームだ。

スパイは行動開始後に気付かれることなく味方を撃破する必要があるし、スパイ以外は誰がスパイかわからないという状況におびえながらも敵を撃破しなければならない、まさに悪魔のゲームである。

 

ゲーム終了後、俺たちは人を信じる事が出来なくなっていた。

「スパイ戦怖え、なんで隣でニコニコしながら進軍してたこいつがスパイなんだよ、やべぇだろ」

浩史はおびえていた。

「どうした、大丈夫か?」

「ひぃっ!!撃たないでくれ!!」

そう、俺がチーム内のスパイだったのだ。

まさか、浩史も俺がスパイと思わずにともに行動していたところ俺に撃ち抜かれるとは思わなかったらしい。

「もう撃たないから心配すんなよ」

俺はゲラゲラ笑いながら浩史に告げる。

「全く素振り見せないとか、お前演技力高すぎだろ。」

未だに怯えながらも浩史は告げる。

「けっけっけ、ノコノコついてきやがって」

俺はニヤニヤしながら浩史に告げる。

「この外道が!!!!」

浩史は叫んだ。

 

これでこの前の資料の件もチャラにしてやろう。

浩史たちすっかりサバゲーの楽しさにハマったようで、次いつ行こうかという話や銃どれがいいかなどと盛り上がっており、常連さんの銃を撃たせてもらったりと各々でた惜しんでいるようだった。

 

以降、社内でも浩史の態度は大きく変わった。

これまで我が物顔だった態度はすっかり変わり、チーム内でしっかりとコミュニケーションを取りながら仕事に取り組むようになった。

この大きな変わりように上司や他のメンバーも唖然としていたが、相変わらず俺を見るときは疑いの目をかけてくる。

そんなにスパイ戦がトラウマなのかよ・・・。

 

どうやらサバゲーを楽しんだことでチーム内で連携を取ることの大切さも同時に学んできたようだ。

「おい和也、今週末サバゲー行くのか?」

打ち合わせが終わりデスクに戻った俺に浩史は問いかける。

「うん、行こうかなって思ってる。浩史も銃買ったんだって?」

サバゲーの後浩史たちはお気に入りの銃を見つけたようで購入したようだ。

「おう、次のサバゲーがデビュー戦よ!」

新しい銃を手にしたことでテンションがかなり上がっているようだ。

俺も自分の銃を手にしたときはこんなだったなぁと懐かしむ。

「次のサバゲー、楽しみだな!」

「おう!・・・お前、スパイじゃないよな?」

「さあ、どうだろうなぁ~?」

「もう勘弁してくれ・・・・。」

俺たちはハハハと笑いあう。

 

さて、次はどんな事があるだろうか。

【恋愛】俺をいじめてくるクラスメイトは婚約者!?

俺の名前は小鳥遊和也。

現在高校3年生の18歳で、彼女いない歴=年齢の陰キャだ。

俺は現在ある悩みを抱えている。

それは、

「あら小鳥遊君、今日もさえない顔で登校とは笑えるわね」

そう声をかけてきたのはクラスメイトの高鳥陽葵(ひなた)、クラスのマドンナであり人気者、成績も優秀という万能人間だ。

「あ、高鳥さんおはよう」

俺は無視するわけにもいかないと一応返事をした。

「昨日の宿題、ちゃんとしてるわよね?」

「う、うん。してきたけど・・・」

「宿題、よこしなさい。」

「なんで?」

「写すからよ!」

そういうと強引にカバンから昨日の宿題を取り出し奪い去っていった。

俺はこの高鳥陽葵が大の苦手だ。

出来れば関わりたくないと思うが、何かあればすぐに絡んでくる。

「はあ、」

教室に入り席に着くなり俺は深いため息をつく。

「おう和也、今日も朝から陽葵さんに何かされたのか?」

教室に入るなり深いため息をつく俺に前の席に座っている斎藤隆哉が声をかけてきた。

明るくリーダーシップがある彼はクラスのムードメーカーであり僕の数少ない親友だ。

「うん、下駄箱に行くなり高鳥さんに絡まれて宿題を奪われたよ。」

ハハハ、と乾いた笑いを上げながら俺は先ほどの出来事を語る。

「そりゃ朝から災難だな。ま、どんまい☆」

「どんまい☆じゃないよ!朝一で憂鬱だよ!」

俺のむなしいツッコミは隆哉には響くことはなかった。

 

昼休み、席でお弁当を広げる僕に高鳥さんが近づいてくる。

「ちょっと小鳥遊君、お使いを頼まれてくれるかしら?」

ほらきたよ。

「いやだ、と言ったら?」

「そうね、きちんと私の言う事を聞くように校舎裏にでも連れて行って徹底的に躾をするわ」

いや、怖えよ!と心の中で思いつつも顔は平静を装った。

「しつけは怖いから勘弁してほしいな・・・」

「そう、なら購買まで行ってチョコレートパンを買ってきて頂戴。」

「そんなの、自分で行けばいいじゃないか」

「いやよ、あんなに人が多い場所に行くなんて」

「俺だっていやだよ!!」

多少抵抗してゴネてみたが結果は変わらず、僕は教室を叩き出された。

「いてて、乱暴にもほどがあるだろ」

そんな高鳥さんにいびり続けられた1日を乗り越え俺は帰宅した。

夕飯後、俺は部屋に戻ろうとしたところを父親に止められた。

「和也、話があるんだ」

「どうしたんだ親父、そんなに改まって」

珍しく真面目な顔をする親父を不思議に思いつつも促されるままにソファへと座る。

俺の前に座る両親、いつになく深刻な顔をしている。

「そんなに深刻な顔して、何かあったのか?」

俺は緊張感を和らげようと声をかける。

「和也ってば高校3年生にもなって色恋沙汰どころか女の子のおの字も無いでしょ?母さんたちこのままだと和也は一生童て・・・いえ、一生独身のまま孤独死するんじゃないかと心配になってね?」

「真剣な表情の割に悩みがしょうもないんだけど!?」

俺は立ち上がり深刻そうに話す母さんにツッコミを入れる。

って、誰が一生童貞だこらぁ!!

 

「お前はこのままだと、妖精、いや大賢者まっしぐらだぞ」

親父が続けざまに言葉を投げかける。

「余計なお世話だよ!!」

どうやら両親は頭がくるってしまったらしい・・・。

「そこでだ、俺達には昔から仲が良い友達がいてな?いつか自分たちの子供を結婚してくれるといいなと話し合ってたんだ。」

迷惑すぎるだろ・・・

「もちろん、子供の将来を縛り付けるつもりはなかったし、18歳になった時に恋人がいればその恋を優先するつもりだった。」

「しかし、両方の子供とも恋人どころか浮ついた話もないと。それで父さんたちは子供同士を婚約させてしまえと思ってな!」

「いや、思うなよ!馬鹿なの!?どうかしちゃったの!?」

どうやら両親は頭がくるってしまったらしい(2回目)

「今日はその友人のお子さんに来てもらったんだ。ちなみにその子はこの話を知ってるし、了承済みだ。」

「いや、知らない人との婚約を了承しちゃダメだろ!しっかりしてその人!!」

俺は追い付かないツッコミ業務に全力を注ぐ。

「じゃあ、入ってきたまえ」

ギャアギャアとツッコミを入れる俺を他所に親父はリビングに招き入れる。

ガチャっとドアを開けて入っていたのは予想外の人物だった。

「・・・・・・隆哉」

「えっと・・・幸せにしてね???」

もじもじとしている隆哉、ゲラゲラ笑い転げる親父、なんだこれ。

「なんだこれ・・・・」

俺の予想通りの反応だったのかゲラゲラと隆哉も笑い始めた。

「ヒーッ、ヒーッ、お前の婚約者は隆哉君じゃないぞ。あ~、腹痛い。」

「悪い悪い、遊びに来たらまさかのタイミングだったからつい・・・。」

親父と隆哉は交互にそう告げる。

「じゃあ婚約者は誰だよ!?」

俺はたまらず声を上げた。その時、新たな人物がリビングに入ってきた。

爆笑しながら・・・

「あ~、面白いわ。それにしても小鳥遊君、ツッコミは元気なのね。」

ケラケラ笑いながら入ってきたのはなんと高鳥さん

「高鳥さん?どうしてここに?」

俺は状況が追いきれずに高鳥さんに尋ねる。

「私が君の婚約者なのよ、小鳥遊君。」

「え・・・」

俺は驚きを隠せない。

まさか、大の苦手な俺をいじめてくる人物が婚約者で、高鳥さんはそれを了承しているなんて。

俺の今までのテンションは急降下し、青ざめていた。

「まさか、2人が同じ高校、しかもクラスメイトだったなんてなぁ。こんな偶然あるんだな」

落ち着きを取り戻した親父はそう語りかけてくるが、俺の耳には入らなかった。

 

全員が落ち着いたところで、改めて婚約について聞いてみた。

何故か隆哉もいるがこの際はもうどうでもいい。

 

高鳥さんによると、1か月ほど前に同じ話を両親から聞いており、婚約の相手が俺という事も告げられていたそうだ。

それを知ったうえで彼女は同意したのだという。

「なんで?」

俺は素直に疑問を持ちかけた。

「得体のしれない相手よりも顔も名前も知っている人なら安心じゃない?」

そう告げる彼女の表情はうそをついているようには思えないほど笑顔だった。

「お前はどうなんだ?こんなかわいい子が婚約者じゃ不満か?」

俺はこの子に散々イジメられてるからいやだ、なんてとてもいう気になれない。

しかし、婚約に同意もしたくない。

「ちなみに、今回の話を断ると次のお前の婚約者は犬だ」

「犬うううう!?」

親父の横にはなぜか犬が座っている。どこから連れてきた。

「はあ、分かったよ。その話、乗るよ」

色々と諦めた俺はしぶしぶ同意することに。

「よかったわ~。じゃあ二人とも、引っ越しをするから週末までに準備をしておいてね?」

「引っ越し??」

「えぇ、来週から2人は同じ屋根の下で暮らすのよ。2人きりでね。」

母親は笑顔のままそう告げる。

「いやいやいや、無理だろ!いろいろな面で無理だろ!!!」

俺はさすがに拒否反応を示す。

当たり前だ、いくら苦手な子が婚約者とはいえ男女2人が同じ屋根の下、俺の身にどんな事が起こるかわかったもんじゃない。

「心配ない、お前はヘタレだから陽葵ちゃんに手を出すことなんてないだろうし、もし手を出しても大歓迎だ!」

「違う、そうじゃない」

俺はもう何を言っても無駄だと悟りを開いた。

「高鳥さんはそれでいいの?」

助け船のように高鳥さんに質問をする。

「えぇ、私は大賛成よ。」

もう駄目だ。

「でも、生活費とかどうするんだよ?俺バイトもしてないんだぞ?」

「その点は心配いらない。俺たちが出すから2人はバイトなどせずに勉強に集中しなさい。ただし、それ以外の家事なんかは当然2人がするんだ。」

なんてこった・・・。

 

週末、俺たちは新居と指定された場所に向かう。

そこには、新築の一軒家が立っていた。

「親父、この家どうした?」

恐る恐る俺は親父に聞いてみる。

「おん、土地買って建てた(`・ω・´)」

そういえば普段のほほんとしてるから忘れてたけどうちの親父地元でも有名な建築士だったわ。

さも当然のように返事をしてくるどや顔の親父にため息をつく。

 

「あとは二人で仲良くしろよ~!俺達はこれからしばらく陽葵ちゃんの両親と海外に行ってくるから!」

「あ、ちょっと待て聞いてねえぞ!!」

その言葉を待たず両親は俺たちを置き車で去っていった。

「高鳥さん、とりあえず家に入ろうか?」

こうなってしまってはもう抵抗などできない、今から俺は高鳥さんと2人で生活をしなければいけないのだ。

「小鳥遊君、どうしてこの話を断らなかったの?」

不安そうな顔をして高鳥さんは聞いてくる。

「うちの親父さ、今回の婚約みたいに言い出したら本当にやりかねないんだ。それに断ったところで何とか言いくるめて結局はこうなったよ。その証拠に知らない間に家まで建ててるんだし」

「でも、本気で断れば無理やりにさせようなんて思わなかったんじゃない?」

やけに聞いてくるな。高鳥さんもそんなに嫌だったのだろうか?

「高鳥さんこそどうなの?俺との婚約あっさり了承したっていうじゃないさ。」

「えぇ、私は昔から貴方が好きだった。だから今回の話を受けたのよ。」

「そうだったんだね・・・・・・。今なんて?」

「私は貴方が昔から好きだったって言っただけよ?まぁ、普段からあんな態度取ってしまったのだから君に嫌われても仕方ないし、断られると思ってた。」

そう告げる高鳥さんの表情は嬉しいような、悲しいような複雑な表情だった。

「今までのことを謝って許してもらえないって言うのは十分わかってる。だから、その償いになるかわからないけどこれからの生活で尽くさせてくれないかな?もちろん、小鳥遊君、いえ、和也君が迷惑じゃなければだけど・・・。」

泣きそうな表情になりながら俺に告げる。

彼女は本気なんだ。

「そんな顔されたら断れないじゃないか。確かに、今は高鳥さんのことを好きになれない。それだけは事実だ。でも、これから2人で暮らしていかなきゃいけないから仲良くしていきたいと思ってるよ。高鳥さんが1人で全部する必要もないからさ、ちゃんと家の事分担してがんばろ?」

俺も彼女の覚悟にはこたえなければならないだろう。

気持ちの答えなんて今すぐ出す必要もない、これからの生活で見つけて行けばいい。

 

俺をいじめてくる大嫌いなクラスメイトは婚約者になった。

俺たちの生活は一体どんな未来が待っているのか。

それは、まだ誰も知らない。

【ホラー】電話の主は

私の名前は紗耶香。

現在二十歳で憧れであったアパレル業界で働いている。

お店は小さいが、店長を含め働く全員の仲はとてもよく、プライベートでもよく連絡を取り合ったり遊んだりしているほどだ。

 

同い年の和沙とは特に仲が良く、毎日のように電話をしては長々と語り合っている。

この日も仕事終わりに和沙と電話していた。

 

「もしもし、和沙?仕事終わったよ~~」

「紗耶香お疲れ様!今日はお店大変だった?」

「ううん、今日は棚卸があった程度で来客はいつも通りだったからそうでもなかったよ。」

「そういえば、来月から新作フェアが始まるんだっけ?」

「そうそう、今日商品の一部が入荷したんだけど、可愛くてほしくなっちゃった。笑」

「店長のセンスってホントに女心擽るよね~。お店も繁盛するわけだよ」

 

店長は25歳と若いながら、そのセンスと巧みな経営戦略によりお店を繁盛させている、私たちのあこがれの人だ。

お店の商品も好きだったが、この店長と一緒に働きたいと思って私は入社した。

その判断は今でも間違ってないと思えるほど毎日が充実していて、店長から学ぶこともたくさんある。

 

そんなたわいない会話をしていると、突然和沙の声が聞こえづらくなり、ノイズが大きくなっていった。

「ちょっと和沙、電波の悪いところにでもいるの?ノイズがひどいよ?」

私は笑いながら和沙に伝える。

「そうなの?私は別に何ともないけどなぁ・・・。じゃあ、今日の電話はお開きにしますか~」

「うん、また明日職場でね!」

「うん、紗耶香お休み~」

普段ならもっと長い時間電話をするのだが、電波の不調もあり今日は早めに電話を切り上げることにした。

 

夕食やお風呂などを済ませて布団に入ろうとしたところ、テーブルに置いていたスマホが鳴った。

「誰だろう?」

私はスマホの画面を確認する。相手は和沙だった。

「和沙ったら~、まだ話したりないの?」

笑いながらも通話ボタンを押す。

「もしもし、和沙?こんな時間にどうしたのよ?」

私は電話主の和沙に問いかける。

「・・・・・・・・・・・。」

「和沙?聞こえる?もしも~し」

「・・・・・・・・。」

「和沙?どうかしたの?聞こえる?」

私は和沙からの返事がないことに疑問を感じ、何度か問いかけるが無言である。

いや、正確には無言電話の先でノイズのような、風切り音のような音が聞こえてくる。

「和沙、聞こえないみたいだから一回切るね?」

私はそう声をかけて電話を切った。

和沙のいたずら電話だろうと考えたのだが、こんな夜中にそんないたずらをしてくるような性格でないことは知っている。

もしかしたら、何か用事があったのかもしれないと私は折り返し和沙にかけることに。

 

「・・・もしもし?紗耶香こんな時間にどうしたの?」

「和沙!どうしたのじゃないわよ全く~」

「はぁ?いきなりかけてきて突然何??」

「何って、今和沙がかけてきて何も聞こえなかったから一度切ってかけなおしてるんじゃない」

「紗耶香寝ぼけてる?私電話なんてかけてないし、寝てたんだよ?」

 

たった今の出来事なのに会話がかみ合わない。

眠そうにあくびをしながら話す和沙は今まで本当に寝ていたんだろう。

もしかしたら和沙が寝ているときに偶然通話ボタンが押されたのかもしれない、私はこの時そう思った。

「そかそか、いきなり電話あって無言だったからびっくりしてさ、ごめんね?」

「ううん、大丈夫。ありがとうね。」

お休みのあいさつをして電話を切った。

 

数日後、私はいつも通りお店で勤務をしていた。

店長にバックヤードから商品を持ってくるように指示を受けたので取りに行く。

その時、お店の電話が鳴った。

近くにいた私は電話を取る。

「もしもし、お電話ありがとうございます。」

「・・・・・・・・・・。」

「もしもし、聞こえますでしょうか?」

「・・・・・・・・・・・。」

返事がない、いたずら電話だろうか。

何度か問いかけていると、無言電話の向こうからかすかにだが音が聞こえてくる。

それは、数日前和沙からの無言電話があった時と同じ音だった。

「もしもし?お声が遠いようですので電話を切らせていただきます、申し訳ございません」

相手方にそう伝えて受話器を置こうとしたところ、

「・・・・・・・ぅぅぅぅ・・・・。」

なにやら声が聞こえてくる。

電話を切る前に私は再度問いかけてみた。

「もしもし、聞こえますか?」

「ぅぅぅぅ・・・・・・ぅぅぅぅああああ・・・・。」

「いやっ!!」

突然聞こえてきたうめき声に驚き私は勢いよく受話器を置いた。

「紗耶香ちゃん、どうしたの?」

中々戻ってこない私の様子を確認するために来てくれた店長に声を掛けられる。

「いえ、電話がかかってきたので取ったんですけど、ずっと無言だったので切ろうとしたら突然ノイズと男の人のうめき声が聞こえてきて・・・」

私はドクドクと高鳴る心臓の鼓動を収めるように胸に手を当てて、店長に今あった出来事を話した。

「そうなんだ。いたずら電話かもしれないから気にしなくて大丈夫よ。」

店長にそう促されたことで少し落ち着きを取り戻し、私は仕事に戻った。

その日、何度かお店に電話がかかってくるもどれも取引先やお客様からの問い合わせであり、無言電話はなかった。

仕事を終えるころには忙しさもあり私はすっかり忘れていた。

 

「紗耶香、今日無言電話がかかってきたんだって?」

仕事を終え、一緒に帰路に就く和沙に聞かれる。

「うん、無言電話だったんだけど、切ろうとしたらうめき声が聞こえてきてめっちゃ不気味だった。」

「たまにそんないたずら電話があったりすることもあるみたいだからね~。」

和沙は店長と同じことを口にする。

「ま、クレームの電話じゃなくてよかったじゃない。」

和沙はケラケラと笑いながら言った。

「もう、和沙ったら~。ほんとに怖かったんだからね!」

少し怒ったように和沙にいうも、いまだにケラケラと笑っている。

「はいはい、紗耶香ちゃんよく頑張りましたね~」

そういうと和沙は笑いながら私の頭をなでてくる。

「・・・・和沙、ほんとに怒るよ・・・?」

イラっとしたが、天真爛漫な和沙を見ていると元気がでて私も釣られて笑った。

「ごめんごめん、でも紗耶香やっと笑えるくらい元気になったね!」

和沙はあれから元気のない私を彼女なりに心配してくれてたようだ。

「和沙、ありがとね。」

私は笑顔でお礼を告げた。

 

帰宅後、今日は散々話したから電話はお預けとなり、疲れもあったので早めに眠ることにした。

しばらくして、手元にあったスマホが鳴った。

「ううん・・・誰だろ・・・・?」

眠っていた私は電話の主を見ることなく通話ボタンを押した。

「もしもし・・・?」

「・・・・・・・・・・・・・」

また無言電話だ。

私の眠気は吹き飛び冷や汗が流れる。

電話の主は、和沙。

「和沙?もしもし?」

「・・・・・・・・・」

問いかけるが何も返事がない。

昼間の出来事が私の頭の中にフラッシュバックする。

電話を切ろう、そう思ったのだが体が動かない。

「え・・・動かない、なんで・・・」

私の腕は誰かにがっちり固定されているようにびくともしない。

いや、腕だけでない、体全体が動かないのだ。

「いやだ・・・」

私は泣きそうになるも体は言う事を聞いてくれない。

その時

「ぅぅぅぅ・・・・ぅあああああ・・・」

あのうめき声が受話器から聞こえてくる。

「いや・・・・」

私は耳をふさごうとしても相変わらず体は動かない。

うめき声はだんだん大きくなる。

大きくなるうめき声を聞きながら私はあることに気付く。

「声、電話からじゃない・・・?」

最初は確かに受話器から聞こえてきたうめき声だが、今は真横から聞こえる。

「うううううう・・・・ああああ・・・・」

うめき声におびえていると、突然ベットの下から腕が伸びてきて私の腕をガシッと掴んだ。

「きゃあ!!」

私はあまりの恐怖に悲鳴を上げる。

その瞬間、腕の主がバッと立ち上がり、こちらをにらみつける。

太り気味で眼鏡をかけた40代ほどの男性がこちらをジッとにらみつけている。

「ううううううああああああああ・・・・・」

「いやあああああああ!!!!」

私はあまりの恐怖に気を失った。

 

翌日、私は昨夜の内容を和沙に話した。

和沙は私がおびえている様子から話が嘘でないと確信、霊媒師を調べてくれた。

電話にて和沙と私から交互に話を聞いた霊媒師は、すぐに来なさいと告げる。

電車で1時間ほどの場所であり、今日は休日なのですぐに向かう事に。

 

霊媒師の元へ到着するや否や、私の霊視を始めた。

霊視の結果、私に憑りついている例がいるらしく、正体は私が見た男性という事が判明。

そして、恐ろしいことにこの男性は強力な心霊ストーカーであるという事。

女性好きで執着心が強いこの男性は、そのあまりの強さから怨霊と化しており、無言電話や金縛りなどの悪影響を与えたのだという。

「このまま放置してたら、あなたこの男に魂を乗っ取られて最悪死んでたわよ」

霊媒師は最後にこう告げた。

 

男性の除霊は過酷を極め、なんと半日にも及んだ。

霊媒師によると、私から霊を引きはがすことに成功はしたが、成仏させることは出来なかったとのこと。

それほどまでに強力な霊だったようだ。

なぜ私が憑りつかれたのかはわからない。

霊媒師曰く、たまたまこの例がいる場所を通りがかってしまい、男性の好みだったから憑りつかれたのだろうとのこと。

除霊後、少しでも憑りつかれなくなるようにとお清めをしていただいた。

 

以来、私の周りで不気味な現象が起こることは一切ない。

しかし、あの男は今もどこかで自分の好みの女性を狙っている・・・。

【家族愛】コミュ障から就活に失敗し家族から追い出された俺、しかしある方法で見返しに成功!

俺の名前は和也。

現在18歳の引きこもり、いやニートというべきだろうか。

俺は昔から他人のコミュニケーションをとることが大の苦手だった。

話したいとは思っているが人を前にしていざ話そうとすると緊張してなかなか言葉が出ないのだ。

 

そんな性格が災いして学生時代は中々友人が出来ずに孤立もしていた。

それだけではなく、人生の中で大切なイベント「就活」さえも失敗してしまったのだ。

成績はそれなりで働きたいと思った仕事もあった。

しかし、面接で上手く話す事が出来ずにどこの企業も不合格。

 

「あんた、その人前で緊張する癖いい加減何とかならないの?

 人見知りの限度をはるかに超えてるじゃない」

 

ふさぎ込む俺に追い打ちをかけるようにそう話しかけてきたのは俺の母親。

「言われなくてもわかってるんだよ!!」

俺はやり場のない怒りを抑える事が出来ずにそう母親に怒鳴りつけ、部屋に飛び込み思い切り扉を閉めた。

 

そこから、俺はほとんど部屋から出ることなく生活をしている。

そして、引きこもりになって3か月が経過したころ、俺は半ば無理やり両親から部屋を出され、リビングに連行された。

 

テーブルに座り俺と正対する両親。

重苦しい雰囲気の中、父親が口を開いた。

「お前のコミュニケーション能力のなさはひどすぎる。

 しかし、これ以上家の中でお前の面倒を見ることもいい加減辞めなければいけないと俺は考えている。」

 

「それってどういう・・・」

言い終わらないうちに父親は続ける。

「1か月期間をやる、それまでに仕事を見つけて来い。それまでは家に暮らしていい。

 だが、1か月後にお前にはこの家を出て行ってもらう。たとえ仕事が見つからなくとも、だ。」

父親はまっすぐに、しかし冷たい目で俺にそう言い放つ。

 

「・・・・わかったよ。」

俺は家族にすら見放されたのだ。

そりゃそうだ、こんな仕事もしないニートの息子なんて近所のいい笑いものだ。

 

そして1か月後、俺は就職先を結局見つける事が出来なかった。

 

「ダメだったか。しかし、約束を今さら変更することは絶対にない。引っ越しの代金としばらくの生活費は渡しておく。しかしそれが尽きた後どうなろうが俺たちは知らない。自分で何とかするんだな」

 

父親にそう告げられた俺は、両親が見つけておいたという部屋に引っ越しをした。

それは実家から1時間以上もかかる俺も訪れたことがない田舎町。

俺は新居に到着するや否や乾いた笑いを上げた。

「ははっ、こんな田舎町でどうしろってんだよ・・・」

とてつもない虚無感が俺を襲う。

しかし、勘当同然で追い出された俺は何とかしなければホームレス確定コースだ。

何か俺に残された道はないものかと部屋を見回しながら必死に考える。

ふと、パソコンが目に入った。

そうだ、俺にはパソコンと、もう1つ大好きなものがあるじゃないか!

 

俺の趣味はゲームだ。

最近ではプロゲームやe-Sports、動画配信などで生計を立てている人が多くなっているというのはニュースなどで見ていた。

「これならできるかもしれない」

俺は人を目の前にすると緊張してしまう。

しかし、顔が見えなければいけるかもしれないと希望を見出した。

いきなりすぐにお金が稼げるなんて考えていないが、何も行動しなければ何も変わらない。

ダメもとだが、パソコンを起動し配信するための環境を整備して、ネットで勉強しながら配信をつづけた。

ゲーム配信のカズゲーミングとして配信を開始。

最初のころは誰1人として俺の配信を見ることはなかったが、それでも俺の心が折れることはなかった。

そんな0人配信が続いたある日、1人、2人と配信を見に来る人がいた。

配信中にリスナーはチャット形式でコメントを送信する事が出来、配信者はコメントを読み上げることやコメントに返事をする事が出来る。

 

俺は閲覧者と交流しながらの配信が楽しくなり、いつしかゲーム配信にハマっていた。

そうして配信を始めて3か月が経過しようとしたころ、配信を見に来る人は100人を超えるようになっていた。

 

そんなある日、いつものように配信をしていたところ、新規で配信を見に来てくれたリスナーさんがいた。

「はじめまして、今日初めて配信を見に来ました!」

チャットでリスナーからのコメント。

「お、はじめまして~。来てくれてありがとうね!時間が許す限り楽しんでいってくれよな!」

俺はいつものようにコメントに挨拶を返す。

「カズさんの声、声優の小塚さんに似てない?」

チャット内にそんな文章が流れた。

すると、

「確かに、誰かに似てると思ってたけど小塚さんだ!」

「カズさん、よく来たなぁ!って言ってみてください!!」

俺がゲームをしている最中にチャットコメント内ではそんな会話で盛り上がっており、投げ銭付きのコメントでリクエストが来た。

小塚さんと言えばゲームやアニメでは渋い声と人気の声優だ。

俺も大好きでよく知っているが、まさか自分の声が似ているなんて思ったことも無かった。

俺はチャットで流れてきたリクエストにこたえる。

小塚さんのイントネーションを意識して。

「よう、よく来たなぁ!」

我ながら、少しは小塚さんのイントネーション真似できたかなと思う。

すると、「うおおお!小塚ボイスだあああ!!!」

とチャット内は大騒ぎに。

 

配信を見ていたリスナーさんがSNSなどで拡散したようで、物まねをした30分後にはなんと5000人を超える人が来ていた。

 

それから日に日に配信を見に来るリスナーは増えていき、それに比例して投げ銭も多くなっていった。

俺は配信だけでなく、配信したゲームを撮影、編集して動画としてアップ。

配信同様に好調であっという間にチャンネルの登録者数は5万人を超えた。

登録者が多くなったことで広告をつける事が出来るようになり、配信の投げ銭と動画の広告収入が入るようになった。

家を追い出されて早半年、父親から渡された生活費が底をつきそうになる前にある程度の収入を得る事が出来るようになっていた。

 

1年後、俺はとあるゲームイベント会場に来ていた。

会場に来た目的は新しいゲームを見に来たわけではない。

仕事として来ている。

 

あれから配信を続けていくうちに企業から声がかかり、新規ゲームの配信などの案件が入るようになっていた。

ゲームの配信やゲーム周辺機器のレビューなど、範囲は多岐にわたるが、顔を出すことなく配信や動画で案件をこなしていた。

そんな時、とある有名ゲーム企業から1通のメッセージが届いた。

「今度、とあるゲームイベント会場でわが社の新作ゲームの発表イベントが行われます。

そこで、新しいゲームのプレイをしていただけませんか?」

 

正直、俺は断ろうかと考えた。

今まで顔出しNGとしてゲームの配信や動画を出してきた。

今さら顔を出したいとは思わないし、何より人前になると緊張して離せない。

ボロが出てしまってはファンが離れる可能性もある。

 

交渉の結果、ヘルメットを着用し顔出しなしという条件で出演が決定した。

イベントは盛況のうちに終了。

その様子はネットニュースやバラエティー番組でも取り上げられるほどだった。

 

数日後、家で配信の準備をしているとスマホが鳴った。

電話の主は父親だった。

 

「もしもし、久しぶりだね」

正直1年も連絡なかった父親とは話す気もなかったが一応電話には出た。

「和也、久しぶりだな。元気にしているか?実はな、テレビ番組を見てお前を見かけたから連絡をしてみたんだ。この前のゲームイベント、顔は出してなかったけどお前だろ?」

「そうだよ、俺今は家でゲームの配信や動画配信でお金を稼ぎながら企業からも案件を受けて仕事をしてるんだ。」

 

「そか、お前に合う仕事を見つける事が出来たんだな。」

俺は久しぶりの連絡という事もあり、俺にお金をせびろうとしているのではないかと警戒した。

「実は、今回連絡した理由はだな」

ほらきた、このセリフがあるという事は何か困りごとがあって頼ろうとしているパターンじゃないか。

しかし、父親から放たれた次の言葉は予想を反するものだった。

「今日連絡した時点で何も仕事をしていなかったら俺の下で仕事をしないかという誘いだったんだ。」

「はあ???」

「あの後父さんな、和也がそんな性格になってしまったのは育て方に原因があるんじゃないかって母さんと話して、和也のために何かできることはないかって考えたんだ。」

 

「父さん・・・。」

「そして先月、俺会社を辞めたんだよ。」

「いきなりどうして!?もしかして体悪いのか?」

「ははは、違う違う。父さんな、会社を作ったんだよ。家族が一緒ならお前も仕事が出来るんじゃないかってな。」

「父さんと母さんは俺を見放したんじゃなかったのか・・・?」

俺はあまりの予想外の言葉を受けて、素直に疑問を投げかけた。

「今回連絡をして、どうしようもなくだらけていたらそれも本気で考えていたさ。しかし、お前がまだ苦しみながら、悩みながら自分と向き合っていたのなら家と俺の会社に迎え入れようと思ってな。」

 

「そか、ありがとうな。でも、家に戻ることは出来ないよ。」

「そうか、理由を聞いてもいいか?」

「ほんとは、これまで俺を追い出した父さんたちを憎んでいた。でも、自分の配信とか動画を楽しみにしてくれている人がいるのも事実なんだ。だから、俺は1人で出来るところまで頑張って、俺を楽しみに待ってくれている人たちを楽しませたいと思ってる。

それには、賑やかな場所にある実家よりも周りが静かでのんびり配信が出来るこの場所が最適なんだよ。」

 

「そうか、和也変わったな。」

「うん、もしあの時父さんたちが俺を追い出すなんてしなかったら多分こんなことできなかったと思ってる。だから、ありがとう。」

「悪かったな和也。俺たちはお前を腫れ物扱いのように追い出してしまった。もっとできることがあったはずなのにな。」

「今さら気にしてないよ。それより父さん、会社は順調にいきそうなのか?」

「あぁ、まだまだ課題や問題はあるが頑張ってる和也を見てると父さんも負けてられないからな!」

「歳食ってんだから無理だけはするなよ?なんか手伝えることがあれば俺もたまには手伝うからさ」

「歳食ってるは余計だろ。だがお前は自分のことに今は集中しろ。たまには帰って来いよ?」

「あぁ、時間あるときには帰るよ。」

 

父さんは俺を勘当したんだとずっと思っていた。

だから収入を得るようになっても俺から連絡をすることなんてしなかったし、今回連絡がなければずっと連絡を取ることはなかっただろう。

そうなっていたら俺は両親の本心を知ることなくずっと憎しみを頂いていたかもしれないし、思いやりに気付く事が出来なかった。

 

こんなダメ息子のために必死で考えてくれてたなんて、父さんはずるいな。

両親の愛情に触れた俺はいつの間にか涙があふれていた。

近いうちに実家に帰るとしよう。

お土産とお土産話をたくさん持って帰って、家族3人で食卓を囲みながらこれまでのことをたくさん話そう。

そう思いながら俺は今日も配信を続ける。

 

【友情】夢に向かって突き進め

俺の名前は和也。

現在高校2年生で野球部に所属している。

俺には幼いころから一緒に過ごしてきた幼馴染の勇騎がいる。

勇騎は小学生から、俺は中学生になってから野球を始め、現在は同じ高校で野球部に所属して毎日ハードな練習をこなしている。

 

勇騎は名前の通り勇ましくどんなことにもチャレンジするやつで、高校に入学してからもハードな練習を難なくこなし、それだけでなくしっかりと勉強面でも好成績を残し続けている。

 

一方の俺はと言えばどちらかと言えば性格は控えめであり運動神経なんてものは皆無、勉強に関しても授業についていくのがやっとで成績も中盤程度と平凡である。

 

俺が野球を始めたきっかけは、幼いころから夏に祖父の家に泊まりに行き一緒に甲子園を見ており、甲子園球場というところにあこがれを持っていたからだ。

当時小学生の俺は運動が本当に苦手で、体育の授業すら嫌と思うほど体を動かすことが大嫌いだった。

そんな俺は当然のように肥満体型であり、運動嫌いにさらに拍車がかかり運動というものにある種の拒絶反応を見せていた。

 

そんな時、幼いころ遠くに引っ越していった勇騎が再び地元に戻ってきて俺のいる学校に転校してきた。

その時から、俺の生活は一変したのだ。

 

お互いに覚えていた俺達は再会を喜び、勇騎は俺の運動嫌いを一緒に克服しようと体育の時は常に傍にいてくれたり、放課後一緒に軽い運動や遊びで体を動かすきっかけを作ってくれたりと、幼いながらに行動力のあるやつだった。

 

中学に入る前、野球クラブに所属していた勇騎と帰り道に雑談しているとき、何気なく甲子園球場にいつか行ってみたいと話したことがある。

俺はその時自分で野球をしたいとは思っておらず、勇騎が所属する野球クラブの練習を眺めては楽しんでいた。

野球の知識がない俺から見ても、勇騎は野球が上手でありこいつならいつか本当に甲子園に行くのかもしれないと、自分の夢を勝手に勇騎に託していた。

 

中学に入り部活動をするかどうか悩んでいると、同じクラスになった勇騎から一緒に野球をやろう、という事を言われた。

それが俺の野球人生の始まりである。

 

野球部に入ると改めて勇騎の野球のうまさを実感する事が出来、うまいだけでなく練習に取り組む姿勢も真剣なものだった。

元々運動神経に乏しい俺は練習についていくのが必至で、レギュラーの座など夢のまた夢という状態であったが、勇騎は自主練習に付き添ってくれたりと本当に支えられっぱなしだった。

正直、勇騎が居なければ俺は野球部なんて早々に退部してまた運動が嫌いな元の状態に戻っていたと思う。

 

中学時代は結局地区の大会で敗退し県大会への出場すらできずに終わった。

不思議と3年も部活を続けると運動きらいもそこそこに克服され、下手なくせに勇騎に一緒に甲子園へ行こうと誘い、同じ高校を受験し一緒に高校野球の道を歩み始めた。

 

高校生になってからも勇騎の野球の腕前は伸び続ける一方で、1年の秋にはレギュラー入りを果たしていた。

俺はと言えばベンチにも入れず、高校野球のレベルの高さや、甲子園球場に行くという事の難しさを思い知らされて野球に対するモチベーションは徐々に低下し、野球を辞めようかなという事さえ考えるようになった。

 

そして、現在に至るわけであるが俺はダラダラと野球を続けているが、かつての甲子園に行きたいという思いやレギュラーの座を勝ち取りたいというモチベーションはすっかりなくなり、ルーティーンのように野球の練習をこなすだけの毎日となっていた。

 

ある日の練習後、俺は急に勇騎に呼び止められた。

「お前さ、あの時一緒に甲子園行こうって俺に行ったよな?」

珍しく怒ったような表情をしている勇騎。

「今のお前は本当に甲子園に行きたくて野球を頑張ってるのか?はっきり言わせてもらうけどな、今のお前からはそんな雰囲気全く感じないし、練習をきちんとしているようには見えないぞ。」

 

勇騎の厳しい言葉が俺の心に突き刺さっていく。

「その通りだよ。高校に入ってから自分が言ってた言葉の重さを思い知らされた。俺みたいな平凡な奴が簡単に口にしていい夢じゃなかったんだなってさ。」

隠しても無駄だと悟った俺は、勇騎に今の自分の気持ちを正直に話した。

「勇騎は本当にすごいよ。昔から野球上手くて、高校でもどんどん腕を上げてさ。今じゃ数少ない2年生レギュラーの1人だもんな。センスあるやつはこんなにすごいんだって思った。」

 

「はぁ?俺がセンスあるやつだと?お前の目にはそんな風に映っていたのか?言っとくがな、俺は野球のセンスなんてありはしないし本当にセンスのあるやつはもっとすごいやつらばかりだ。」

俺の言葉に本当に怒ったようで、勇騎が初めてではないかと思うくらい声を荒げて俺にそう言った。

「和也、お前今からちょっと俺に付き合え。」

有無を言わさず俺の手を引き勇騎はグラウンドへ戻っていく。

「お、おい勇騎、練習は終わったってのに何でグラウンドに戻ってるんだよ?」

「ついてくれば分かる」

勇騎は理由を話すことなく俺をグラウンドへ引っ張っていった。

「高校に入ってから俺は野球の練習が終わるといつも居残りでこうやって練習しているんだよ。だから和也と一緒に帰るなんてことなかっただろ?」

確かに思い返してみれば、高校に入ってから一緒に帰るなんてことはなかった。

「じゃあ、ずっと1人で居残り練習をしてたのか?」

俺は初めて知った事実に驚きを隠す事が出来なかった。

「そうだよ、お前との夢をかなえるためにはもっともっと腕を磨く必要があったし、少しでも早くレギュラーになることも必要だった。なにより、甲子園は俺の夢でもあるんだ。だから今お前に改めて聞く。和也、お前は本当に俺と甲子園に行きたいのか?本気で甲子園球場に立ちたいと思うのか?」

 

そう問いかける和也の眼は本当にまっすぐだった。

まっすぐ俺に向けられており、その気持ちが本当であるという事は俺にも分かった。

勇騎は本当に俺と甲子園に行くために必死に毎日1人で努力をしていたんだ。

それを俺はセンスという簡単な言葉で決めつけてしまった。

そのことが悔しくて、自分の甘さや弱さに腹立たしくも感じた。

それと同時に、勇騎と一緒に甲子園を目指したいという思いが俺の中で再燃した。

今までよりも大きな炎となって。

「勇騎、本当にごめん。こんなに努力しているお前をセンスという言葉だけで決めつけて。今からでもまだ間に合うと思うか?」

「間に合うかなんて俺にはわかるわけないだろ?だが、努力をしなければ何も変わらないという事は分かるはずだ。どうする?それでも今から気持ちを入れ替えて努力してみるか?」

「あぁ、勇騎とならやれる気がする。だから、俺も自主練に付き合わせてくれ!」

「それでこそ和也だな。ここぞという時の決断力は俺も尊敬するよ。普通なら心折れて挫折してもおかしくないのにさ、それでまた立ち上がろうとする、すごいやつだよ。」

俺のことをそんな風に思っていてくれてたなんて知らなかったな。

「勇騎がいてくれるからだよ。俺だけだったらとっくに野球辞めてただろうからな。改めて、宜しく頼む。」

それからというもの、俺と勇騎は毎日自主練に勤しむ様になった。

勇騎のアドバイスもあり俺は効率的に練習をする事が出来、なんと2年生の秋にはレギュラーになる事が出来た。

俺と勇騎は外野手でポジションは俺がライト、走力と肩力がある勇騎がセンターとなった。

俺たちの息の合ったコンビネーションは外野でポテンシャルを発揮し、互いに連携を取ることでライトセンター間の守りは鉄壁と呼ばれるほどになった。

 

そして3年の夏、俺たちは県予選を無事に突破し、念願の甲子園球場への切符を手に入れる事が出来た。

「勇騎、やったな!」

「あぁ、俺たちの夢の舞台、甲子園球場だ!」

俺たちは互いに抱き合い、夢をかなえたことを喜び合った。

甲子園では1回戦、2回戦と順調に勝利を収めていったのだが、3回戦で優勝候補と言われている強豪校と当たってしまい、諦めずに最後まで戦ったが1点差で敗退してしまった。

俺たちの夏は終わったが、それでも充実したものであり満足感は大きかった。

そして、高校の卒業式。

俺たちはその後、進学、就職と違った道を選択しお互い離れた場所で新しい生活を始めることが決まった。

「勇騎、本当にこれまでありがとうな。お前が一緒だったから甲子園って夢がかなえられたよ。」

「俺だってそうだよ。実はな、俺高校で野球をする予定なんてなかったんだ。だけど、和也の甲子園行きたいって言ったときの目が輝いてたからさ、和也と一緒なら行けるかもしれないって思ったんだ。」

さらっと言われた衝撃的な事実に俺は驚きを隠せなかった。

「え、勇騎高校で野球するつもりなかったのか!?あれだけ上手かったからてっきりプロを目指して頑張るものだと勝手に思ってたぞ。」

「いや、中学の時に野球に満足してる部分があってさ。高校は部活をしないでのんびり勉強しながらバイトでもして過ごそうかなぁって考えてた。甲子園なんて夢みたいなことちっとも考えてなかったさ。」

けらけらと笑いながら勇騎は俺にそう言ってきた。

「だから、夢を持ってそれを話した和也のことをすごいと思ったし、和也と一緒なら刺激のある毎日が遅れるかもなって思ってさ。その選択は間違いじゃなかったし。」

まさか、努力家でどんなことにも前向きにチャレンジしていた勇騎がそんな考えを持っていたとは思わなかった。

「だから、和也。俺を同じ高校に誘ってくれて本当にありがとう。和也の夢のおかげで俺は3年間を最高に充実した形で送る事が出来た。」

勇騎は俺に頭を下げてお礼を言った。

「俺こそありがとう。夢をかなえるために努力してくれて、俺を引っ張ってくれてさ。勇気がいなければ絶対に無理だったよ。」

俺も勇騎に頭を下げてお礼を言った。

 

「俺達、野球だけじゃなくてもいいコンビだったな。」

「そうだな、俺達最高の幼馴染だな。」

夢を語る大切さを教え、夢に向かって突き進むことを教えてもらった勇騎との関係はこれからも途絶えることはないだろう。

どんなに絶望的な状況でも夢に向かって突き進むことの大切さを勇騎から学ぶ事が出来た俺は、これから立ちはだかるであろういくつもの困難にも立ち向かえそうな気がする。

勇騎とはこれから別々になるが、これまでの日々を忘れずにしっかりと未来を歩いていこうと思う。