【恋愛】チョコの送り主
俺の名前は和也。
地元の高校に通ういたって普通の17歳、探偵だ。
・・・いや、探偵というのは噓だから忘れてくれ。
俺には高校から仲良くなった海斗という友人がいる。
家は離れているが帰る方角が同じでクラスも同じという事もあり、
今では親友と呼べるほどに仲がいい。
それともう1人別に、厄介な存在がいる。
「せんぱぁ~い。今日もデートしてくれないんですかぁ?」
「毎日来ても返事は変わらん。だが断る!」
「こんな美少女のお誘いを毎日断るなんて・・・まさか、ホm(ry」
「おい、ぶっ飛ばすぞ。」
この間延びした特徴的な話し方でデートにひたすら誘ってくるのは、1学年下の後輩、愛梨だ。
学科が同じという事もあり、上級生が後輩の授業に出張して授業の補佐をするという実習があるのだが、初めての実習の際に愛梨たちのグループを担当してからというものこのありさまだ。
「愛梨ちゃ~ん、こんなぶっきらぼうほっといて俺とデートしようよ~。」
「カスに用はありません」
「(´・ω・`)」
隣を歩く海斗が愛梨に言葉をかけるもあっけなく玉砕、骨はそこら辺の犬に配って回るから成仏してクレメンス。
どちらかと言えば俺より海斗のほうが顔もよければスタイルもいい、おまけに話を盛り上げるのも上手だというのに愛梨はなぜか海斗が気に食わないようだ。
「恋敵は滅ぼすまでです!」
「いやまて、それはおかしい」
理由は分からなかったが今分かった。
そして違う。
「和也先輩は私のものになるんですぅ!」
「ふっ、俺と和也の絆をそう簡単に引き裂けると思うなよ?俺たちは、同じ布団で寝た仲だぞ?」
「いや、言い方ぁ!!修学旅行で同じ部屋だっただけだろうが!!」
「なん・・・だと・・・?」
膝をついて崩れ落ちる愛梨、もうお前ら勝手にやってくれ。
俺は勝手に校門前でバトルを繰り広げる2人を放置して帰宅した。
後日、バレンタインを翌日に控えた日の下校中、
「今年こそはチョコ貰いてぇ!!」
「うるせえなぁ~。」
「なんだよ~、明日はバレンタインだろ?そりゃワクワクもするさ!おらワクワクすっぞ!!」
「おいやめろ」
今年こそはチョコをと声高らかに願う海斗。
こいつ顔はいいのになぜかチョコを貰ったことがない。
「なぁ和也、なんで俺ってチョコ貰えないんだ?」
突然冷静になった海斗が訪ねてきた。ふむ、親友としてきちんと答えるべきだろう。
「馬鹿だからだろ」
「うっほ、マジか!?」
そういうとこだ、馬鹿野郎。
海斗は黙ってたらイケメンなのだが口を開けば残念な知能指数が露呈するためモテない。
ここまで来ると可哀そうだが来世に期待してもらうとしよう。
俺はギャアギャアうるさい海斗をあしらいながらもともに帰宅した。
そういえば、今日は珍しく愛梨が絡んでこなかったな。
いきなりなくなると寂しいもんだが、たまには静かな日常も悪くない。
翌日、よほどバレンタインが楽しみなのか、海斗はいつもより15分も早く俺の家に来た。
「和也ー、早く学校行こうぜー!」
朝から元気な奴だ。
苦笑いを浮かべる母さんに行ってきますとあいさつを交わし、俺は玄関を出る。
きらきらと爽やかな笑顔を浮かべている海斗、俺はふと違和感に気付く。
「おまえ、香水変えた?」
いつもと違う香水の香りがしてきたことに気付いた俺は海斗に尋ねた。
「さすが親友、気づくのが早いなぁ。今日の為に有り金はたいてお高い香水を買ってきたんだ!」
こいつはよほどチョコが欲しいのか。
そこまでするとは、恐ろしい行動力。
「お前の思い切りの良さには感心するよ。」
俺はあきれ顔で海斗に言う。
「おっと、俺に惚れるなよ?男には興味ないんでね。」
訂正、こいつやっぱり馬鹿だ。
通常の3倍テンションが高い海斗とともにいつもの通学路を歩いていく。
こいつのテンションがまだ高くなることに正直びっくりだ。
道行く女子高生は誰にチョコを渡すだの、友チョコ交換会どこでするだのと、チョコの話題で盛り上がっている。
今は友チョコなるものがあるんだから、女子も大変だな。
そんな会話に聞き耳を立て、ニヤける海斗、気持ち悪い。
「キモチワルイ。」
「ん?何か言ったか?」
「ナンデモナイヨ」
「どうした、急に片言になって?あ、もしかしてお前も冷静なふりして実はチョコにチョコっと期待してるんだろ~?」
「殴っていいか?」
ニヤケながらしょうもないダジャレをぶっ放す海斗に殺意を抱きつつも、俺たちは学校に到着した。
靴を履き替えようと靴箱を開けたところ、靴箱の上段に何か入ってることを確認する。
「なんだこれ?」
「どうした~?」
一向に靴を履き替えようとしない俺に気付いた海斗が近づいてくる。
「おい、これチョコじゃねぇの?」
「形とかからしてその可能性はあるな。」
「なんで和也に!!俺の靴箱にはクモの抜け殻しか入ってなかったってのに!!」
チョコと真逆のものが入っていることはスルーして、俺は謎の箱を眺める。
「差出人が誰か全く分からないんだが。」
「裏に何か書いてたりしないのか?」
「いや、和也さんへと書いてあるばかりで差出人は何も書いてない。」
「なんじゃそりゃ。」
とりあえず放置するわけにはいかないのでカバンに入れて教室へ向かう。
教室に到着し自分の席に着いた時、机の中に何か入っていることを確認した。
「手紙?」
どうやら今度は手紙のようだ。
表には俺の名前が書いてあるが、こっちも差出人は分からない。
俺は手紙をこっそり読んでみる。
「和也さんへ。靴箱にチョコレートを入れたのは私です。この手紙も入れました。直接手渡せなくてごめんなさい。差出人が気になるのであれば、昼休みに北校舎の屋上へ来てください。待っています。」
さすがにここまでされて差出人を無視するわけにはいかない。
俺は昼休みに北校舎の屋上へ向かう事にした。
昼休み、海斗からの食堂への誘いを断り俺は北校舎の屋上へ向かった。
相手がだれであれお礼くらいは言わなければ。
俺は北校舎の屋上へ出る扉を開けた。
「・・・来てくれたんですね、先輩。」
「プレゼントと手紙の差出人はお前か、愛梨。」
「はい、私が入れました。もちろん、送り主も私です。」
「愛梨ならいつもの調子で直接渡すと思っていたから、ちょっと予想外だな。
それにしても、なんでこの場所なんだ?」
「1学期の先輩の出張授業の後、ここで初めてお話したことを覚えてますか?」
あぁ、そんなこともあったな。
俺は考え事があるとよくここに来ていた。
あの日も出張授業後の昼休みにこの場所に来たら、1人落ち込む愛梨がいたんだっけ。
「懐かしいな。授業内容がよくわからないって落ち込んでたんだっけ?」
「はい、落ち込んでるときに先輩が来て、私の話を聞いてくれました。」
そうだった。専門教科の内容が分からずに落ち込む愛梨に俺が1年の時に授業で取ったノートを基にアドバイスしたんだっけ。
「俺もあの教科はほんとに苦手で、ノートをしっかり取っては家で散々復習したって話もしたんだっけ。」
「はい、授業中の先輩からは苦手な雰囲気無くて、その話を聞いたときにびっくりしました。」
愛梨は俺の目をしっかりと見つめ、
「先輩、あの時に教えてくれてほんとにありがとうございました。」
深々とお辞儀をしてお礼を言った。
「いつもの愛梨らしくないな、どうしたんだ?」
俺はいつもと雰囲気の違う愛梨に少しドキドキしながらも、何か悩みがあるのではないかと尋ねた。
「悩みではなくて、先輩に伝えたいことがあってここに来てもらいました。」
「伝えたい事?」
「先輩、私とデートしてください!」
「いつも言ってるだろ。だがことw(ry・・・」
いつもの調子で断ろうとしたときに俺は気づいた。
彼女の目が本気であることに。
「先輩、勉強を教えてもらった日から先輩のことが好きです。この言葉に嘘偽りはありません。今日のチョコだって本命です。」
愛梨は真剣な目をしながらも不安そうに、そして緊張からか少し震えていた。
彼女は勇気を振り絞って思いを告白してくれた。
ならば、俺もきちんと答えなければならない。
「俺は、愛梨のデートの誘いがほんとは嬉しかった。こんなぶっきらぼうな俺に毎日明るく接してくれて、笑顔で話してくれる愛梨が気になっていた。それと同時に、俺が愛梨に思いを伝えていいのかっていう不安もあった。明るい愛梨にならもっといい人がいてその人のほうが愛梨を幸せにしてくれるんじゃないかって。俺は自分の気持ちを押し殺してた。でも、今日の愛梨を見てそんなのダメだって思ったよ。それに、ここ数日愛梨がいなかったのが寂しかったし。愛梨、俺は君が好きだ。チョコレートと手紙、そして気持ちを伝えてくれてありがとう。こんな俺でよければ、付き合ってくれないか?」
「ふふっ、せんぱぁい、告白が遅いです~。でも、ありがとうございます。私を先輩の彼女にしてください。」
愛梨は緊張がほぐれたのか目には涙を浮かべていた。
だが、彼女の表情は満足した満面の笑みであった。
「えへへ、今日から先輩の彼女・・・、デートはもう断れませんね?」
小悪魔的な笑みを浮かべながらいたずらっぽく俺に聞いてくる。
全く、この生意気彼女はどこまでも俺をおちょくらなければ気が済まないらしい。
ならば・・・。
俺はゆっくり愛梨に歩み寄り、そっと優しく抱きしめた。
「せせせせ、先輩!?」
突然のことに驚き慌てふためく愛梨。こういうとこが可愛くて好きなんだよ、畜生。
「もちろん、断るわけないだろ?」
「・・・はい////」
放課後、
「せんぱぁ~い、デートしましょう!」
「馬鹿め、俺がいる以上貴様と和也のデートは叶わなi「いいぞ、行くか」
「えっ??」
俺のいつもとは違う返事に驚愕する海斗。
「へっへ~ん、今日から先輩は私のものですぅ!どこぞの馬の骨は渡しません!」
俺の腕にしがみつき海斗に向かいべ~ッと下を出し威嚇する愛梨。
「ば・・・・ばかな・・・・」
前回とは立場が逆転し崩れ落ちる海斗。
え、なに?この茶番もしかしてずっと続くの?
「さ、先輩行きましょ♪」
「分かった分かった、引っ張るなって!」
崩れ落ちる海斗を他所に愛梨は俺の腕を引っ張っていく。
「・・・やっとくっついたか。和也、カワイイ彼女を大切にしてやれ。」
歩き立ち去る俺達に向かい、聞こえない独り言で祝福する海斗。
そんな海斗にカワイイ彼女が出来るのは、また別のお話。