【ホラー】電話の主は
私の名前は紗耶香。
現在二十歳で憧れであったアパレル業界で働いている。
お店は小さいが、店長を含め働く全員の仲はとてもよく、プライベートでもよく連絡を取り合ったり遊んだりしているほどだ。
同い年の和沙とは特に仲が良く、毎日のように電話をしては長々と語り合っている。
この日も仕事終わりに和沙と電話していた。
「もしもし、和沙?仕事終わったよ~~」
「紗耶香お疲れ様!今日はお店大変だった?」
「ううん、今日は棚卸があった程度で来客はいつも通りだったからそうでもなかったよ。」
「そういえば、来月から新作フェアが始まるんだっけ?」
「そうそう、今日商品の一部が入荷したんだけど、可愛くてほしくなっちゃった。笑」
「店長のセンスってホントに女心擽るよね~。お店も繁盛するわけだよ」
店長は25歳と若いながら、そのセンスと巧みな経営戦略によりお店を繁盛させている、私たちのあこがれの人だ。
お店の商品も好きだったが、この店長と一緒に働きたいと思って私は入社した。
その判断は今でも間違ってないと思えるほど毎日が充実していて、店長から学ぶこともたくさんある。
そんなたわいない会話をしていると、突然和沙の声が聞こえづらくなり、ノイズが大きくなっていった。
「ちょっと和沙、電波の悪いところにでもいるの?ノイズがひどいよ?」
私は笑いながら和沙に伝える。
「そうなの?私は別に何ともないけどなぁ・・・。じゃあ、今日の電話はお開きにしますか~」
「うん、また明日職場でね!」
「うん、紗耶香お休み~」
普段ならもっと長い時間電話をするのだが、電波の不調もあり今日は早めに電話を切り上げることにした。
夕食やお風呂などを済ませて布団に入ろうとしたところ、テーブルに置いていたスマホが鳴った。
「誰だろう?」
私はスマホの画面を確認する。相手は和沙だった。
「和沙ったら~、まだ話したりないの?」
笑いながらも通話ボタンを押す。
「もしもし、和沙?こんな時間にどうしたのよ?」
私は電話主の和沙に問いかける。
「・・・・・・・・・・・。」
「和沙?聞こえる?もしも~し」
「・・・・・・・・。」
「和沙?どうかしたの?聞こえる?」
私は和沙からの返事がないことに疑問を感じ、何度か問いかけるが無言である。
いや、正確には無言電話の先でノイズのような、風切り音のような音が聞こえてくる。
「和沙、聞こえないみたいだから一回切るね?」
私はそう声をかけて電話を切った。
和沙のいたずら電話だろうと考えたのだが、こんな夜中にそんないたずらをしてくるような性格でないことは知っている。
もしかしたら、何か用事があったのかもしれないと私は折り返し和沙にかけることに。
「・・・もしもし?紗耶香こんな時間にどうしたの?」
「和沙!どうしたのじゃないわよ全く~」
「はぁ?いきなりかけてきて突然何??」
「何って、今和沙がかけてきて何も聞こえなかったから一度切ってかけなおしてるんじゃない」
「紗耶香寝ぼけてる?私電話なんてかけてないし、寝てたんだよ?」
たった今の出来事なのに会話がかみ合わない。
眠そうにあくびをしながら話す和沙は今まで本当に寝ていたんだろう。
もしかしたら和沙が寝ているときに偶然通話ボタンが押されたのかもしれない、私はこの時そう思った。
「そかそか、いきなり電話あって無言だったからびっくりしてさ、ごめんね?」
「ううん、大丈夫。ありがとうね。」
お休みのあいさつをして電話を切った。
数日後、私はいつも通りお店で勤務をしていた。
店長にバックヤードから商品を持ってくるように指示を受けたので取りに行く。
その時、お店の電話が鳴った。
近くにいた私は電話を取る。
「もしもし、お電話ありがとうございます。」
「・・・・・・・・・・。」
「もしもし、聞こえますでしょうか?」
「・・・・・・・・・・・。」
返事がない、いたずら電話だろうか。
何度か問いかけていると、無言電話の向こうからかすかにだが音が聞こえてくる。
それは、数日前和沙からの無言電話があった時と同じ音だった。
「もしもし?お声が遠いようですので電話を切らせていただきます、申し訳ございません」
相手方にそう伝えて受話器を置こうとしたところ、
「・・・・・・・ぅぅぅぅ・・・・。」
なにやら声が聞こえてくる。
電話を切る前に私は再度問いかけてみた。
「もしもし、聞こえますか?」
「ぅぅぅぅ・・・・・・ぅぅぅぅああああ・・・・。」
「いやっ!!」
突然聞こえてきたうめき声に驚き私は勢いよく受話器を置いた。
「紗耶香ちゃん、どうしたの?」
中々戻ってこない私の様子を確認するために来てくれた店長に声を掛けられる。
「いえ、電話がかかってきたので取ったんですけど、ずっと無言だったので切ろうとしたら突然ノイズと男の人のうめき声が聞こえてきて・・・」
私はドクドクと高鳴る心臓の鼓動を収めるように胸に手を当てて、店長に今あった出来事を話した。
「そうなんだ。いたずら電話かもしれないから気にしなくて大丈夫よ。」
店長にそう促されたことで少し落ち着きを取り戻し、私は仕事に戻った。
その日、何度かお店に電話がかかってくるもどれも取引先やお客様からの問い合わせであり、無言電話はなかった。
仕事を終えるころには忙しさもあり私はすっかり忘れていた。
「紗耶香、今日無言電話がかかってきたんだって?」
仕事を終え、一緒に帰路に就く和沙に聞かれる。
「うん、無言電話だったんだけど、切ろうとしたらうめき声が聞こえてきてめっちゃ不気味だった。」
「たまにそんないたずら電話があったりすることもあるみたいだからね~。」
和沙は店長と同じことを口にする。
「ま、クレームの電話じゃなくてよかったじゃない。」
和沙はケラケラと笑いながら言った。
「もう、和沙ったら~。ほんとに怖かったんだからね!」
少し怒ったように和沙にいうも、いまだにケラケラと笑っている。
「はいはい、紗耶香ちゃんよく頑張りましたね~」
そういうと和沙は笑いながら私の頭をなでてくる。
「・・・・和沙、ほんとに怒るよ・・・?」
イラっとしたが、天真爛漫な和沙を見ていると元気がでて私も釣られて笑った。
「ごめんごめん、でも紗耶香やっと笑えるくらい元気になったね!」
和沙はあれから元気のない私を彼女なりに心配してくれてたようだ。
「和沙、ありがとね。」
私は笑顔でお礼を告げた。
帰宅後、今日は散々話したから電話はお預けとなり、疲れもあったので早めに眠ることにした。
しばらくして、手元にあったスマホが鳴った。
「ううん・・・誰だろ・・・・?」
眠っていた私は電話の主を見ることなく通話ボタンを押した。
「もしもし・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・」
また無言電話だ。
私の眠気は吹き飛び冷や汗が流れる。
電話の主は、和沙。
「和沙?もしもし?」
「・・・・・・・・・」
問いかけるが何も返事がない。
昼間の出来事が私の頭の中にフラッシュバックする。
電話を切ろう、そう思ったのだが体が動かない。
「え・・・動かない、なんで・・・」
私の腕は誰かにがっちり固定されているようにびくともしない。
いや、腕だけでない、体全体が動かないのだ。
「いやだ・・・」
私は泣きそうになるも体は言う事を聞いてくれない。
その時
「ぅぅぅぅ・・・・ぅあああああ・・・」
あのうめき声が受話器から聞こえてくる。
「いや・・・・」
私は耳をふさごうとしても相変わらず体は動かない。
うめき声はだんだん大きくなる。
大きくなるうめき声を聞きながら私はあることに気付く。
「声、電話からじゃない・・・?」
最初は確かに受話器から聞こえてきたうめき声だが、今は真横から聞こえる。
「うううううう・・・・ああああ・・・・」
うめき声におびえていると、突然ベットの下から腕が伸びてきて私の腕をガシッと掴んだ。
「きゃあ!!」
私はあまりの恐怖に悲鳴を上げる。
その瞬間、腕の主がバッと立ち上がり、こちらをにらみつける。
太り気味で眼鏡をかけた40代ほどの男性がこちらをジッとにらみつけている。
「ううううううああああああああ・・・・・」
「いやあああああああ!!!!」
私はあまりの恐怖に気を失った。
翌日、私は昨夜の内容を和沙に話した。
和沙は私がおびえている様子から話が嘘でないと確信、霊媒師を調べてくれた。
電話にて和沙と私から交互に話を聞いた霊媒師は、すぐに来なさいと告げる。
電車で1時間ほどの場所であり、今日は休日なのですぐに向かう事に。
霊媒師の元へ到着するや否や、私の霊視を始めた。
霊視の結果、私に憑りついている例がいるらしく、正体は私が見た男性という事が判明。
そして、恐ろしいことにこの男性は強力な心霊ストーカーであるという事。
女性好きで執着心が強いこの男性は、そのあまりの強さから怨霊と化しており、無言電話や金縛りなどの悪影響を与えたのだという。
「このまま放置してたら、あなたこの男に魂を乗っ取られて最悪死んでたわよ」
霊媒師は最後にこう告げた。
男性の除霊は過酷を極め、なんと半日にも及んだ。
霊媒師によると、私から霊を引きはがすことに成功はしたが、成仏させることは出来なかったとのこと。
それほどまでに強力な霊だったようだ。
なぜ私が憑りつかれたのかはわからない。
霊媒師曰く、たまたまこの例がいる場所を通りがかってしまい、男性の好みだったから憑りつかれたのだろうとのこと。
除霊後、少しでも憑りつかれなくなるようにとお清めをしていただいた。
以来、私の周りで不気味な現象が起こることは一切ない。
しかし、あの男は今もどこかで自分の好みの女性を狙っている・・・。