【怖い話】ずっとついてくる・・・
これは、俺が実際に高校時代に経験した、身の毛もよだつ恐怖のお話です。
俺の名前は和也、現在高校2年生。
現在は帰宅部だが、中学時代に野球をしていたこともあり現在も学校から帰宅しては筋トレやランニングを日課として体を鍛えている。
この日も学校が終わり、友人と談笑しながら午後4時ごろに帰宅した。
「ただいま~」
玄関を開けてそうつぶやくが、両親は共働きで不在のため返事はない。
人の気配がないところを見ると、俺と同じ学校に通う1つ下の妹、茉奈もまだ帰宅はしていないようだった。
「そういえば、茉奈は今日友達と遊びに行くから遅くなるっていってたっけ・・・」
独り言をつぶやきながら俺は2階への階段を上がり自分の部屋へと入っていく。
「さて、今日も張り切ってトレーニングしますか!」
いつものようにトレーニングの際に着用するジャージへと着替え、ランニングをするために玄関でランニングシューズを履く。
「着替え、水分補給用の飲み物、準備OK!」
玄関を出てから軽いウォーミングアップを済ませて、体を温めるためにルーティーンとしている2kmのウォーキングへと向かう。
「お、和也。今日も走りに行くのか?」
そう声をかけてきたのは隣の家に住む中田さん。
親父と同じ職場の同僚であり、親父とは休日にツーリングに行くほど仲が良く、俺も小さいころから可愛がってもらっている。
「おっちゃんこんにちは!今から少し歩いてその後いつも通り10kmくらい走る予定。」
「そかそか、日が暮れるのも早くなってきたから事故にだけは気をつけろよ?」
中田さんはバイクを磨きながら俺に声をかける。
「ありがとう。帰るころには暗くなるだろうからちゃんと反射材も持っていくよ。」
俺は中田さんと話し終わった後、改めて歩き始める。
道中ではご近所の方や近所に住むちびっ子たちがあいさつをしてくれたり声をかけてくれる。
人と話すのが大好きな俺には楽しい時間でもある。
2kmほど歩くと、いつものランニングコースとなる狭い山道へ差し掛かった。
今日はいつもよりたくさんの人と話したりしたので、スタート地点についたころにはすっかり薄暗くなってきていた。
「反射材と懐中電灯を念のため持ってきて正解だったな」
俺はランニングをスタートする前にポケットの中に準備しておいたタスキ型の反射材を方から下げる。
薄暗くなってきたが、まだ懐中電灯は必要ないだろう。
準備を済ませてからいよいよランニングのスタートだ。
この山道は両側を田んぼや畑に囲まれており、民家はないためこの時間帯になると車通りはほとんどない。
それでも街灯がぽつぽつと設置されているため、運動するには最適のコースなのだ。
コースも緩やかなアップダウンがあるのでトレーニング負荷としてはちょうどよく、この道を運動に使う人も滅多にいないため運動に集中する事が出来る。
ランニングを初めて1kmほど走ったところで、目印となる最初の街灯が見えてきた。
子の街灯から先は両側が山となり木々が多い茂っているため昼間でも薄暗く、街灯が1日中つきっぱなしという事も珍しくはない場所だ。
街灯が近づくにつれて、街灯の下に人影があるのが確認できた。
「こんなところにこの時間人がいるなんて、珍しいな」
もっと近づいてみると、赤いロングコートを着用した長い黒髪の女性であることが確認できた。
こんな場所で誰か迎えでも待っているのだろうか。
「こんばんは~」
俺は目の前を走り抜ける際に挨拶をした。
返事は聞こえなかったが、よくあることなので特に気にも留めなかった。
俺はこの時異変に気付くべきだったのだ。
彼女の影が全くなかったことに・・・。
そんなことを気にも留めることなく俺は予定していた10kmのランニングを終えて帰宅した。
「あ、お兄ちゃんおかえり~。今日はだいぶ遅かったね。」
「うん、ただいま。茉奈こそ、今日は友達と遊ぶから遅くなるんじゃなかったのか?」
「お兄ちゃん・・・もう8時だよ?」
「え?」
俺は茉奈にそう言われてふと時計に目をやると、確かに時刻は午後8時を指していた。
最近暗くなってきて時間の感覚がずれていたのか、いつもより話し込んだおかげかだいぶ時間が過ぎていたようだった。
俺は帰宅するなり入浴を済ませて、みんなと一緒に夕飯を食べた。
次の日、俺はいつも通りランニングに向かう。
今日は少し肌寒いせいか、昨日と同じ時間帯だが人の気配は少なかった。
今日もいつものコースをランニングしていると、昨日と同じ場所にまた同じ女性が立っているのが見えた。
「今日も迎えを待っているのか。それにしても、このあたりでは見ないけどどこの人なんだろう」
そう思いながらも通り過ぎ様にこんばんは、と挨拶をして走り抜けていく。
その女性は1週間、同じ場所に立っていた。
10日ほどたった後、いつものように街灯の下に女性が立っており、俺は気になったので女性に声をかけることにした。
「こんばんは、いつもこの場所で迎えを待っているんですか?」
「・・・・・・・連れてって・・・・」
「え?どこに連れて行けばいいんですか?もっと明るい場所?」
そう尋ねると女性はコクン、とゆっくり首を縦に振った。
「分かりました、近くにいい場所があるのでそこを教えますね。ここからわかりやすい場所なんで迎えの人にも教えてあげてください。」
俺はそういうとランニングコースの途中から住宅街へと上れる坂道へと案内し、そこを登っていく。
「このさか、結構きついけど短いので頑張ってください」
そう声をかけるが返事がない。
不審に思って振り向いてみると、女性の姿はなかった。
「あれ・・・?」
薄暗いからはぐれたのか、あたりを探してみたが女性の姿はどこにもなかった。
さすがに寒気がした俺はこれ以上ランニングをする気にはなれず、そのまま住宅街へと坂道を上がり近道をして自宅へと向かった。
その背後にある街灯には、先ほど見失っていたはずの女性が立って俺の背中を見ていたのだが、俺がそれに気づくことはなかった。
「ただいま~」
運動する気分でもなくなり、すっかりテンションが下がってしまった俺は家に着くなり元気のない声でただいまを言った。
部屋に戻って着替えようと、自分の部屋を開けると茉奈が俺のベッドに寝転がり足をプラプラさせながら漫画を読んでいた。
「あ、お兄ちゃんおかえり~。ゆっくりくつろぎたまえ♪」
テンションが低い俺に対してくつろぎながら上機嫌な妹。
突っ込む元気はないがとりあえず言っておくことに。
「この部屋は俺の部屋だ、なぜ茉奈がくつろいでいる」
「いやぁ、漫画借りて読もうかと思ったけど返しに来るのめんどくなって、どうせお兄ちゃん運動で帰り遅いから居座らせてもらおうかなぁ~と思ってさ。ところで、鬼にちゃんは今日かなり早いお帰りじゃん、体調でも悪くなったの?」
「いや、体調は問題ないんだけどね。ちょっと不思議なことというか、変なことがあってさ。」
そうなんだ、と返す妹。
「まあ、運動して汗はかいてるだろうから先にお風呂行って来たら?ご飯はもう少ししないとできないみたいだよ。」
妹にそう促されたのでお言葉に甘えて先にお風呂に入ることにした。
着替えを持って部屋を出ようとしたその時、
「お・・・お兄ちゃん?その背中の手形はなに・・・??」
妹がひきつった顔をして俺の背中を指さしそう聞いてきた。
「え?」
訳が分からなかった俺はジャージの上着を脱いで確認してみる。
そこには、全く記憶にない真っ赤な手形がくっきりと残されていた。
「なんだこれ・・・」
俺は不気味になりそのジャージを洗面台で洗う。
不思議とその手形はすぐに落ちたのだが、赤い手形を洗った水はまるで血のように真っ赤であった。
その後お風呂に入り少し落ち着いた俺は家族全員がそろった食卓へと足を運び晩御飯を食べる。
「それで、お兄ちゃんは今日どんな目に合ってきたの?あんな手形までつけてさ」
妹に聞かれたため、改めて俺はさっき会った出来事を話す。
「・・・という事なんだ。手形のことは確かにその女の人の前を歩いていた時に一瞬押されたような感覚があったから、その時なのかな。むしろそれ以外に心当たりがないし」
そんな話をしながら夕飯を食べ終わり、自分の部屋へ戻って宿題などを済ませてそのまま眠りについた。
翌日
「お兄ちゃん、学校行くよ!」
妹に促され俺はともに家を出発した。
学校が同じという事もあり登校の時はいつも一緒に出るのが日課だ。
帰りはお互い友人と帰ったり遊びに行ったりするため別々だが。
「昨日のお兄ちゃんの話、ほんとに不思議というか、不気味だったね」
登校中、昨日の話を思い出した妹がそう声をかけてきた。
「あぁ、マジであんな体験はもう勘弁だな。次走りに行くときにいなくなっていることを願うぜ」
そんな話をしながら俺はある交差点に差し掛かった時に見てしまった。
昨日案内しようとした赤い女がそこに立っているのを。
「うわ!!!」
驚いた俺はとっさに大声を上げてしまい、その様子に妹が驚いた。
「どうしたの?」
驚き顔が青ざめている俺に妹は心配そうに声をかける。
かなり近い距離なのに妹は赤い女に気付いていないようだ。
「いや、話した赤い女がそこにいる、間違いなくあいつだ。」
俺はそう言いながら赤い女がいるほうへ指をさし、それに合わせて妹が視線をそちらに向けた。
「?お兄ちゃん、そこには誰もいないよ・・・?」
なんと、赤い女は妹には見えていないのだ。
そんな馬鹿なと思っていると、不意に頭に声が響いた。
「・・・・・・連れてって・・・」
「いやだ、お前なんか絶対に連れて行かねぇ!!」
俺はとっさにそう叫ぶ。
「お・・・お兄ちゃん?」
妹がさらに心配そうに俺の顔を覗き込む。
俺は直感で悟った、こいつは関わっちゃいけないヤバイやつなんだと。
「茉奈、行くぞ」
俺は身の危険と茉奈の危険を感じ取り、茉奈の手を取って学校のほうへ走った。
学校につくなり茉奈に少し文句を言われたが、あまりの俺の慌てようをみて
「お兄ちゃん、何かあったら言ってね?怖いけど、何か役には立ちたいからさ」
「あぁ、サンキューな。大丈夫だ。」
俺は必死に心配してくれる茉奈の頭を一撫でして自分の教室へ向かった。
授業中、不意にスマホがバイブしたので何事かと思ったら妹からだった。
「今日不安なら友達と遊ぶの断って一緒に帰ろうか?」
普段は天真爛漫でわがままな妹だが、今回はよほどの事態と思ったのかかなり心配をしてくれる。
そんな妹の成長に喜ばしくもあったが、これ以上心配をかけるわけにもいかないので大丈夫だから遊んで来いと返信をしておいた。
俺の席は窓側であり、窓の外からは校庭が見える。
今日は気持ちの良い風が吹いており、その風でカーテンが煽られて時折外が見える。
俺はここから見える景色が好きだ。
授業をそっちのけで外の風景を楽しみながら物思いにふけっていた。
5分ほど風がやみ、仕方ないと俺は授業に集中する。
その時、またふと風が吹いてカーテンが煽られた。
その時、窓のすぐ外に赤い女が立っていた。
「うわあ!!!」
俺は驚き大声を上げて席を立ちあがった。
「和也~授業は真面目に聞いてろ~」
先生はそう言い、クラスメイトは俺の様子にどっと笑っているが俺はそんなこと気にしている場合ではなかった。
なんせ俺の教室は3階であり、窓の外に人がいるなんてまずありえないのだ。
しかもその人物があの赤い女・・・。
俺の顔は青ざめて額には脂汗がびっしりと浮かんでいた。
その日の昼休み。
俺はいつものように友人たちと校舎の屋上で弁当を広げて食べていた。
そこに偶然妹と妹のクライメイトが弁当をもって屋上に来たので、なぜか一緒に食べることに。
「それにしても、さっきの和也マジで面白かったよな~。でかい虫でもいたのか?」
けらけら笑いながら親友の翔太は俺をからかってきた。
「お兄ちゃん、何かあったの?」
その言葉を聞いた茉奈が聞いてきた。
実はさ~、と授業中の俺の様子について話し、またけらけらと笑い出した。
「お兄ちゃん、何か見た?」
茉奈が心配そうに聞いてきたので、親友の翔太や茉奈のクラスメイト達にもわかるようにこれまでの事と、今日の授業中のことについて話した。
「まぁ、信じられないと思うんだけどな・・・」
俺はすっかり憔悴しきった顔で説明をして、終わると同時にため息をついた。
どうやら、昨日と今日のことですっかり参っているようだ。
「確かに不気味だな。」
けらけら笑っていた翔太も話をする俺の顔が引きつっているのが分かったのか冗談ではないことを悟ってくれた。さすが親友である。
その時、俺のスマホが突然なり始め、翔太が電話なってるぞと促してくる。
「なんで何も番号が表示されてないんだ・・・?」
スマホ画面を見て俺はそうつぶやく。
翔太にとりあえず出てみろよと言われたので、電話に出ることに。
「・・・・もしもし?」
相手からの返事は全くない。
それどころか、テレビの砂嵐のような雑音がずっとするだけだった。
「いたずら電話か?」
そう翔太が聞いてくる。
「わからない。とりあえず、スピーカーにしてみる」
俺はみんなにも聞いてもらおうとスピーカーにして、再度話しかけた。
「もしもし?聞こえてますか?どちら様ですか?」
やはり雑音しか聞こえない。
いたずら電話だろうと思い電話を切ろうとしたとき、翔太が言った。
「おい、かすかにだが何か聞こえるぞ」
そういうので改めて耳を澄ませて雑音の中から聞こえるものを聞いてみる。
ザザー、ザザザー、「・・・・・連れってって・・・・」
今度は全員にその言葉がはっきりと聞こえた。
その瞬間、うわぁーと叫び俺たちはスマホから離れた。
「おい、なんだよこれ!」
パニックになった翔太が大声で俺に問いかける。
「俺だって知らねぇよ!!」
同じくパニックになった俺は大声で叫び返す。
スマホからは相変わらず雑音と、連れてってという声がしきりに流れてくる。
俺はスマホを手に取り通話を切った。
「はぁ、はぁ、はぁ」
俺の額にはまたもや大量の脂汗が浮かんでいた。
「和也、お前今日の放課後予定空いてるか?」
「あぁ、俺はいつでも開けれるから全然問題ない、どうした?」
「俺の知り合いに霊感が強い人がいて、除霊とかしてくれるんだ。放課後、その人のところに行こう。」
翔太はとても心強い言葉をくれた。
「あぁ、行こう。」
その言葉のおかげで心がいくらか軽くなり、ホッとする事が出来た。
安心するのはまだ早いが、放課後にはこの不気味な奴から解放されるのかと思うと、涙が出そうだった。
「お兄ちゃん、私も行く!ありさちゃんも一緒に行こう?」
茉奈はそう言い、友人のありさちゃんにも声をかける。
「うん、このことが嘘じゃないってわかったし、この電話を聞いたらみんな言ったほうがいいかなって思うから、行くよ。」
「みんな、俺のせいでこんな面倒ごとに巻き込んでごめんな・・・」
俺は申し訳なくなりみんなに頭を下げた。
「こんなに悩んで苦しんでるお前なんかもう見たくないだけだ、気にすんな」
そう翔太は微笑みながら声をかけてくれた。
本当にこいつが親友でいてくれてよかったと思う。
放課後、俺たちは翔太に紹介された人の場所へ向かった。
すぐにお堂のような場所に通されて霊視が始まる。
霊視の結果、赤いロングコートの女は俺に憑りついているという事で間違いないとのこと。
どうやら、地縛霊としていたものが成仏できないまま悪霊となり、元々霊感が強く霊派が同調した俺に救いを求めて憑りついてしまったとのことだ。
彼女は悪霊となってしまったものの、俺たちに危害を加えるつもりは今のところないのだそうだ。今のところ・・・。
彼女は当時の彼氏にその場に置き去りにされて、そのまま近くにある用水路へ転落、亡くなってしまったらしい。
「確かに、昔そんな事件があったって爺さんから聞いたことがあるな」
そのことを聞いた翔太がそうつぶやいた。
おそらく連れてってというのはその彼氏か家族のもとに帰りたかったのであろうとのこと。
そりゃあ、いきなりあんな山の中に置き去りにされて死んだんなら、帰りたいよな・・・・
彼女のことを思うと少し可哀そうになってきた。
俺に憑りつきここまで来たのも何かの縁であろうと思い、俺は除霊を受けながら彼女が無事に成仏してくれることを願い続けた。
願わくば、彼女が生まれ変わった先で幸せに暮らせますように。
1時間ほどで除霊は完了し、俺たちは薄暗くなった道を帰路に就いた。
帰る直前「君は霊感が人よりもかなり強くて霊を取り込みやすい体質のようだ。今回のようなことがもしかしたら今後もあるだろう、気をつけなさい。」
そういい、霊媒師の方からお守りのようなものを貰った。
これでまた明日から平和な日常を送る事が出来る。
「みんな、本当にありがとう。俺一人では何もできなかったし、もしかしたら茉奈や翔太、ありさちゃんによくないことが起こっていたかもしれない。本当に助かったよ。」
帰路につきながら俺はみんなに改めてお礼を言った。
分かれ道でみんなと別れ、俺は茉奈と一緒に家へと向かい歩く。
「お兄ちゃんのあんな姿見たの初めてだから、本当にびっくりしたし何より怖かったよ。」
「怖かった?」
「うん、なんかさ、いつもは優しいお兄ちゃんの表情があんなに変わったのを見たことなかったから、人が変わってしまうんじゃないかって不安になった。」
「確かに、今回ばかりは恐怖と不安しかなかったからなぁ~。解決策なんて何も浮かばなかったし、憑りつかれているとも思ってなかったから焦ったよ。」
俺は笑顔で茉奈にそう答えた。
「お兄ちゃん、久しぶりに笑ったね。」
そういい茉奈は安心したような笑顔で俺に微笑み返してくれた。
そういえば、あの赤い女と出会ってからというもの、あの女の事ばかりを考えていて笑う余裕すらなかった気がする。
帰宅後俺たちは夕飯を食べてそれぞれの部屋へ戻る。
「お休みお兄ちゃんん、ゆっくり休んでね。」
「あぁ、ほんとありがとうな。お休み茉奈」
お互いに声を掛け合い俺は自分の部屋へ入る。
あの赤い女と出会ってから今日まで、なんかあっという間だったなぁ。
俺は物思いにふけながら眠りについた。
深夜3時
俺はガサゴソと足元で音がするのに気が付いて目が覚める。
茉奈のやつ、もしかしてこんな夜中に俺の部屋を漁りに来たのか?
なんて非常識な妹だ。
そう思い、そこにいるであろう茉奈に声をかけるために布団から起き上がろうとするが体が動かない。
「え・・・体が動かない、なんで?」
俺が起きた様子に気付いたのか、ガサゴソと部屋を漁っていたであろう人影はゆっくりと立ち上がる。
「おい茉奈、今真夜中だぞ。いくら兄妹とはいえ時間をもう少し考えてから入って来いよな~」
そう声をかけるが返事はない。
俺は改めて人影を見る。茉奈じゃない、母さんでも父さんでもない。
「お・・・おまえ・・・まさか・・・」
その人影の正体に気付いた俺は震えた声でつぶやく。
「なんで・・・確かにお前は夕方に・・」
人影は足元から俺の枕元へゆっくりと近づいてくる。
「やめろ、くるな・・・」
必死に逃げようとしても体が動かない、それどころか声も出なくなり息苦しくなってきた。
「・・・・つれってって・・・」
「ん・・・んんん~~~~!!!!!」
俺は女に口をふさがれまともに息が出来ない。
この女は一体俺に何を望もうというのか。
「あなたが、私を天国に連れて行って・・・・ねぇ?」
それ以来、あの赤い女は未だに俺のそばにいるが、俺は誰にもそのことを言えないままでいる。
翔太や茉奈は俺の中に赤い女がいることを気づいてはいない。
いや、気づかせてしまっては必ず何かしらの危害が及ぶであろう。
俺は覚悟しなければならないのだ、この女とは死ぬまで一緒であるという事を・・・。