【怖い話】もう一人の住人
俺の名前は和也。
これは、俺が社会人となり最初に住んだアパートの1室で実際に起こった出来事である。
大学を卒業後、幼いころからの夢であった職業に就く事ができ、地元から遠く離れた地へと引っ越すことが決まった。
生まれてから大学を卒業するまでずっと実家で暮らしていたので、念願の1人暮らしデビューとなる。
今日は新しく住むことになる部屋を決めるために不動産の担当者と候補となる場所の内覧に来た。
「ここが、内覧を希望していた部屋でございます。」
担当者に促されて部屋に入る。
2DKの部屋で日当たりもよく、各部屋の広さも1人暮らしとしては申し分なかった。
「写真で見た通り、いい部屋ですね。本当にこの部屋はずっと空き部屋だったのですか?」
日当たりもよく広々としているため、家族で住むにも十分だと思うのだがなぜかこの部屋だけずっと空き部屋でありそこに俺が内覧を希望してきたとのこと。
「えぇ、この部屋はもう1年近く空き部屋でして・・・」
そう話す担当者の表情がかすかに曇ったのが気になったが、部屋自体はとても良かったので一通り内覧を済ませた後に不動産へ戻り、正式に部屋の契約を交わした。
まさか、あの部屋で人生で1番怖い思いをすることになるなんて、この時は知る由もなかった。
数日後、無事に引っ越しも終わり1人暮らしがスタートした。
入社まで日数に余裕を持たせて引っ越しを終えたため、数日はのんびりと引っ越し後の後片付けに専念する事が出来る。
山のように積み重なる段ボールに目をやり、先は長いなとため息をつきながらお気に入りのコーヒーを飲み一息ついた。
引っ越しの疲れもあったためいつもよりかなり早い時間に睡魔に襲われ、続きは明日にしようと床に就いた。
夜中2時、ぐっすりと寝ていたのだが物音が聞こえたため目を覚ます。
コンッ、コンッ、と壁をノックするような音が聞こえる。
お隣さんがこんな時間に何かしているのだろうかと思い、またすぐに眠りについた。
数日後、入社式も終わり研修に手続きにとバタバタした毎日を送っており、家に帰っては最低限のことを済ませて爆睡していたため朝まで物音などで起きることなく過ごしていた。
入社後初めての週末が訪れ、明日は休みだからと近くにあるレンタルショップでずっと気になっていた映画をレンタルし、今日はお酒でも飲みながらゆっくり過ごそうとウキウキしながら帰宅した。
シャワーと晩御飯を済ませてから簡単なおつまみを用意して、1人ぼっちの映画鑑賞を始める。
1本目の映画を見終わり、余韻に浸りながらも2本目の映画を見ようと準備していた時、またもや壁をノックするような音が聞こえてきた。
だが、その音は壁の向こうからしているものではなかった。
寝室としている隣の和室に押入れがあるのだが、明らかにその押し入れから音がしている。
恐怖を感じながらも、きっとお隣さんが何かしている音が押入れの中で響いているだけなのだろうと、そう思い込み2本目の映画を楽しむことに集中した。
2本目の映画は最近DVD化されたばかりの新作であり、今夜の1番のお楽しみと言っても過言ではない作品だ。
テンションは最高潮となりお酒も進む。
そして、2本目の映画が中盤に差し掛かろうとしたころ・・・。
DVDの映像が急に乱れ始めた。
「あれ、新作のはずなのにこのDVD傷んでるのかな。」
レンタルできるDVDの中には、多くの人にレンタルされているうちに傷などが入ってしまい映像が乱れることがある。
新作の場合は滅多に起こることがないが、極稀に初期不良などで映像の乱れや音声の乱れが発生する事がある。
「あちゃあ、楽しみな夜に嬉しくないレアなものを引き当てたなぁ」
たまにはこんなこともあるだろうと、ポジティブに考えてDVDを消すためにリモコンに手をかけた時、異変に気付いた。
DVDの映像はいつの間にか正しく流れている。
しかし、どう考えても俳優の動かす口と声があっていない。
「なんだこれ・・・」
いつの間にかDVDを消すことを忘れて画面を食い入るように見ていた。
その声はだんだんと、唸り声のように変化しいている。
唸り声はだんだん大きくなってきて部屋中に響き渡る。
「うわあ!!」
あまりの恐怖に我に返った俺はすぐにDVDを消した。
「なんだよこれ、不良品にしても悪質すぎるだろ・・・」
さっきのポジティブな思考はすっかりなくなり、楽しかった時間が台無しになったので床に就くことにした。
「明日朝一でDVD交換してもらおう」
就寝してしばらくしたころ、再びコンッ、コンッ、という音が響き渡る。
「お隣さんいつまでも何をしてるんだ?夜中なのに迷惑すぎるだろ」
そう悪態をつきながらも再び眠りにつこうとしたとき、かなり小さいが「ぁぁぁぁぁ・・・」と、DVDを見ていた時と同じようなうめき声が聞こえてきた。
声を上げようとしたが、なぜか声が出らず体も動かない。
(金縛り・・・?まさか)
かろうじて眼だけは動くためどこから声がするのか必死にあたりを見回す。
どうやら押入れの中のようだ。
(そこに何かいるのか?)
怖いながらも押入れを見つめる。
すると、閉めていたはずの押入れがゆっくり、ゆっくりと開いていく。
俺は怖くなり目をつぶった。
カサ、カサ、と畳を何者かが歩いてこちらへ向かってくる。
(頼む、こっちへ来ないでくれ!)
目をつぶりながら必死に心の中でそう叫んだ。
しばらくすると、近づいてきていた足音は玄関のほうへ向かっていき、そのまま足音は消えた。
(どこかへ行ったのか?)
しばらくしても足音がしないため、勇気を振り絞って声を出してみる。
「あ。あ。声も出るようになったな。ほんとに何だったんだ?」
身体も動かしてみたら動くようになっていた。
「まさか俺がこんな恐怖体験を人生の中ですることになるなんてなぁ。ちょっとした武勇伝になるかも」
そんなことを言いながらも安心しきった俺は再び眠りにつこうと押入れとは反対方向に寝返りを打った。
そこには、血まみれで白目を向いた男が俺の隣で寝転ぶようにこっちを見ていた。
「うわあああああ!!!!」
後日、俺はとてもあの部屋に住み続けるなんてことは出来なくなり、引っ越しを決意した。
のちに聞いた話であるが、依然あの部屋に住んでいた男性が自宅前で事故にあいなくなっていたとのこと。
それからは数組の人が部屋を契約したが、長くても半年もいることはなかったという。
部屋の中で亡くなった事故物件ではないため、不動産屋でも通常の部屋と同じ扱いをしているのだが、幽霊が出るという噂が広がったせいか契約する人はほとんどいなくなり、俺が引っ越した後も空き家のままだとのこと。
俺は引っ越した先で同じような目に合うことも無く、毎日充実した生活を送っている。
【怖い話】ずっとついてくる・・・
これは、俺が実際に高校時代に経験した、身の毛もよだつ恐怖のお話です。
俺の名前は和也、現在高校2年生。
現在は帰宅部だが、中学時代に野球をしていたこともあり現在も学校から帰宅しては筋トレやランニングを日課として体を鍛えている。
この日も学校が終わり、友人と談笑しながら午後4時ごろに帰宅した。
「ただいま~」
玄関を開けてそうつぶやくが、両親は共働きで不在のため返事はない。
人の気配がないところを見ると、俺と同じ学校に通う1つ下の妹、茉奈もまだ帰宅はしていないようだった。
「そういえば、茉奈は今日友達と遊びに行くから遅くなるっていってたっけ・・・」
独り言をつぶやきながら俺は2階への階段を上がり自分の部屋へと入っていく。
「さて、今日も張り切ってトレーニングしますか!」
いつものようにトレーニングの際に着用するジャージへと着替え、ランニングをするために玄関でランニングシューズを履く。
「着替え、水分補給用の飲み物、準備OK!」
玄関を出てから軽いウォーミングアップを済ませて、体を温めるためにルーティーンとしている2kmのウォーキングへと向かう。
「お、和也。今日も走りに行くのか?」
そう声をかけてきたのは隣の家に住む中田さん。
親父と同じ職場の同僚であり、親父とは休日にツーリングに行くほど仲が良く、俺も小さいころから可愛がってもらっている。
「おっちゃんこんにちは!今から少し歩いてその後いつも通り10kmくらい走る予定。」
「そかそか、日が暮れるのも早くなってきたから事故にだけは気をつけろよ?」
中田さんはバイクを磨きながら俺に声をかける。
「ありがとう。帰るころには暗くなるだろうからちゃんと反射材も持っていくよ。」
俺は中田さんと話し終わった後、改めて歩き始める。
道中ではご近所の方や近所に住むちびっ子たちがあいさつをしてくれたり声をかけてくれる。
人と話すのが大好きな俺には楽しい時間でもある。
2kmほど歩くと、いつものランニングコースとなる狭い山道へ差し掛かった。
今日はいつもよりたくさんの人と話したりしたので、スタート地点についたころにはすっかり薄暗くなってきていた。
「反射材と懐中電灯を念のため持ってきて正解だったな」
俺はランニングをスタートする前にポケットの中に準備しておいたタスキ型の反射材を方から下げる。
薄暗くなってきたが、まだ懐中電灯は必要ないだろう。
準備を済ませてからいよいよランニングのスタートだ。
この山道は両側を田んぼや畑に囲まれており、民家はないためこの時間帯になると車通りはほとんどない。
それでも街灯がぽつぽつと設置されているため、運動するには最適のコースなのだ。
コースも緩やかなアップダウンがあるのでトレーニング負荷としてはちょうどよく、この道を運動に使う人も滅多にいないため運動に集中する事が出来る。
ランニングを初めて1kmほど走ったところで、目印となる最初の街灯が見えてきた。
子の街灯から先は両側が山となり木々が多い茂っているため昼間でも薄暗く、街灯が1日中つきっぱなしという事も珍しくはない場所だ。
街灯が近づくにつれて、街灯の下に人影があるのが確認できた。
「こんなところにこの時間人がいるなんて、珍しいな」
もっと近づいてみると、赤いロングコートを着用した長い黒髪の女性であることが確認できた。
こんな場所で誰か迎えでも待っているのだろうか。
「こんばんは~」
俺は目の前を走り抜ける際に挨拶をした。
返事は聞こえなかったが、よくあることなので特に気にも留めなかった。
俺はこの時異変に気付くべきだったのだ。
彼女の影が全くなかったことに・・・。
そんなことを気にも留めることなく俺は予定していた10kmのランニングを終えて帰宅した。
「あ、お兄ちゃんおかえり~。今日はだいぶ遅かったね。」
「うん、ただいま。茉奈こそ、今日は友達と遊ぶから遅くなるんじゃなかったのか?」
「お兄ちゃん・・・もう8時だよ?」
「え?」
俺は茉奈にそう言われてふと時計に目をやると、確かに時刻は午後8時を指していた。
最近暗くなってきて時間の感覚がずれていたのか、いつもより話し込んだおかげかだいぶ時間が過ぎていたようだった。
俺は帰宅するなり入浴を済ませて、みんなと一緒に夕飯を食べた。
次の日、俺はいつも通りランニングに向かう。
今日は少し肌寒いせいか、昨日と同じ時間帯だが人の気配は少なかった。
今日もいつものコースをランニングしていると、昨日と同じ場所にまた同じ女性が立っているのが見えた。
「今日も迎えを待っているのか。それにしても、このあたりでは見ないけどどこの人なんだろう」
そう思いながらも通り過ぎ様にこんばんは、と挨拶をして走り抜けていく。
その女性は1週間、同じ場所に立っていた。
10日ほどたった後、いつものように街灯の下に女性が立っており、俺は気になったので女性に声をかけることにした。
「こんばんは、いつもこの場所で迎えを待っているんですか?」
「・・・・・・・連れてって・・・・」
「え?どこに連れて行けばいいんですか?もっと明るい場所?」
そう尋ねると女性はコクン、とゆっくり首を縦に振った。
「分かりました、近くにいい場所があるのでそこを教えますね。ここからわかりやすい場所なんで迎えの人にも教えてあげてください。」
俺はそういうとランニングコースの途中から住宅街へと上れる坂道へと案内し、そこを登っていく。
「このさか、結構きついけど短いので頑張ってください」
そう声をかけるが返事がない。
不審に思って振り向いてみると、女性の姿はなかった。
「あれ・・・?」
薄暗いからはぐれたのか、あたりを探してみたが女性の姿はどこにもなかった。
さすがに寒気がした俺はこれ以上ランニングをする気にはなれず、そのまま住宅街へと坂道を上がり近道をして自宅へと向かった。
その背後にある街灯には、先ほど見失っていたはずの女性が立って俺の背中を見ていたのだが、俺がそれに気づくことはなかった。
「ただいま~」
運動する気分でもなくなり、すっかりテンションが下がってしまった俺は家に着くなり元気のない声でただいまを言った。
部屋に戻って着替えようと、自分の部屋を開けると茉奈が俺のベッドに寝転がり足をプラプラさせながら漫画を読んでいた。
「あ、お兄ちゃんおかえり~。ゆっくりくつろぎたまえ♪」
テンションが低い俺に対してくつろぎながら上機嫌な妹。
突っ込む元気はないがとりあえず言っておくことに。
「この部屋は俺の部屋だ、なぜ茉奈がくつろいでいる」
「いやぁ、漫画借りて読もうかと思ったけど返しに来るのめんどくなって、どうせお兄ちゃん運動で帰り遅いから居座らせてもらおうかなぁ~と思ってさ。ところで、鬼にちゃんは今日かなり早いお帰りじゃん、体調でも悪くなったの?」
「いや、体調は問題ないんだけどね。ちょっと不思議なことというか、変なことがあってさ。」
そうなんだ、と返す妹。
「まあ、運動して汗はかいてるだろうから先にお風呂行って来たら?ご飯はもう少ししないとできないみたいだよ。」
妹にそう促されたのでお言葉に甘えて先にお風呂に入ることにした。
着替えを持って部屋を出ようとしたその時、
「お・・・お兄ちゃん?その背中の手形はなに・・・??」
妹がひきつった顔をして俺の背中を指さしそう聞いてきた。
「え?」
訳が分からなかった俺はジャージの上着を脱いで確認してみる。
そこには、全く記憶にない真っ赤な手形がくっきりと残されていた。
「なんだこれ・・・」
俺は不気味になりそのジャージを洗面台で洗う。
不思議とその手形はすぐに落ちたのだが、赤い手形を洗った水はまるで血のように真っ赤であった。
その後お風呂に入り少し落ち着いた俺は家族全員がそろった食卓へと足を運び晩御飯を食べる。
「それで、お兄ちゃんは今日どんな目に合ってきたの?あんな手形までつけてさ」
妹に聞かれたため、改めて俺はさっき会った出来事を話す。
「・・・という事なんだ。手形のことは確かにその女の人の前を歩いていた時に一瞬押されたような感覚があったから、その時なのかな。むしろそれ以外に心当たりがないし」
そんな話をしながら夕飯を食べ終わり、自分の部屋へ戻って宿題などを済ませてそのまま眠りについた。
翌日
「お兄ちゃん、学校行くよ!」
妹に促され俺はともに家を出発した。
学校が同じという事もあり登校の時はいつも一緒に出るのが日課だ。
帰りはお互い友人と帰ったり遊びに行ったりするため別々だが。
「昨日のお兄ちゃんの話、ほんとに不思議というか、不気味だったね」
登校中、昨日の話を思い出した妹がそう声をかけてきた。
「あぁ、マジであんな体験はもう勘弁だな。次走りに行くときにいなくなっていることを願うぜ」
そんな話をしながら俺はある交差点に差し掛かった時に見てしまった。
昨日案内しようとした赤い女がそこに立っているのを。
「うわ!!!」
驚いた俺はとっさに大声を上げてしまい、その様子に妹が驚いた。
「どうしたの?」
驚き顔が青ざめている俺に妹は心配そうに声をかける。
かなり近い距離なのに妹は赤い女に気付いていないようだ。
「いや、話した赤い女がそこにいる、間違いなくあいつだ。」
俺はそう言いながら赤い女がいるほうへ指をさし、それに合わせて妹が視線をそちらに向けた。
「?お兄ちゃん、そこには誰もいないよ・・・?」
なんと、赤い女は妹には見えていないのだ。
そんな馬鹿なと思っていると、不意に頭に声が響いた。
「・・・・・・連れてって・・・」
「いやだ、お前なんか絶対に連れて行かねぇ!!」
俺はとっさにそう叫ぶ。
「お・・・お兄ちゃん?」
妹がさらに心配そうに俺の顔を覗き込む。
俺は直感で悟った、こいつは関わっちゃいけないヤバイやつなんだと。
「茉奈、行くぞ」
俺は身の危険と茉奈の危険を感じ取り、茉奈の手を取って学校のほうへ走った。
学校につくなり茉奈に少し文句を言われたが、あまりの俺の慌てようをみて
「お兄ちゃん、何かあったら言ってね?怖いけど、何か役には立ちたいからさ」
「あぁ、サンキューな。大丈夫だ。」
俺は必死に心配してくれる茉奈の頭を一撫でして自分の教室へ向かった。
授業中、不意にスマホがバイブしたので何事かと思ったら妹からだった。
「今日不安なら友達と遊ぶの断って一緒に帰ろうか?」
普段は天真爛漫でわがままな妹だが、今回はよほどの事態と思ったのかかなり心配をしてくれる。
そんな妹の成長に喜ばしくもあったが、これ以上心配をかけるわけにもいかないので大丈夫だから遊んで来いと返信をしておいた。
俺の席は窓側であり、窓の外からは校庭が見える。
今日は気持ちの良い風が吹いており、その風でカーテンが煽られて時折外が見える。
俺はここから見える景色が好きだ。
授業をそっちのけで外の風景を楽しみながら物思いにふけっていた。
5分ほど風がやみ、仕方ないと俺は授業に集中する。
その時、またふと風が吹いてカーテンが煽られた。
その時、窓のすぐ外に赤い女が立っていた。
「うわあ!!!」
俺は驚き大声を上げて席を立ちあがった。
「和也~授業は真面目に聞いてろ~」
先生はそう言い、クラスメイトは俺の様子にどっと笑っているが俺はそんなこと気にしている場合ではなかった。
なんせ俺の教室は3階であり、窓の外に人がいるなんてまずありえないのだ。
しかもその人物があの赤い女・・・。
俺の顔は青ざめて額には脂汗がびっしりと浮かんでいた。
その日の昼休み。
俺はいつものように友人たちと校舎の屋上で弁当を広げて食べていた。
そこに偶然妹と妹のクライメイトが弁当をもって屋上に来たので、なぜか一緒に食べることに。
「それにしても、さっきの和也マジで面白かったよな~。でかい虫でもいたのか?」
けらけら笑いながら親友の翔太は俺をからかってきた。
「お兄ちゃん、何かあったの?」
その言葉を聞いた茉奈が聞いてきた。
実はさ~、と授業中の俺の様子について話し、またけらけらと笑い出した。
「お兄ちゃん、何か見た?」
茉奈が心配そうに聞いてきたので、親友の翔太や茉奈のクラスメイト達にもわかるようにこれまでの事と、今日の授業中のことについて話した。
「まぁ、信じられないと思うんだけどな・・・」
俺はすっかり憔悴しきった顔で説明をして、終わると同時にため息をついた。
どうやら、昨日と今日のことですっかり参っているようだ。
「確かに不気味だな。」
けらけら笑っていた翔太も話をする俺の顔が引きつっているのが分かったのか冗談ではないことを悟ってくれた。さすが親友である。
その時、俺のスマホが突然なり始め、翔太が電話なってるぞと促してくる。
「なんで何も番号が表示されてないんだ・・・?」
スマホ画面を見て俺はそうつぶやく。
翔太にとりあえず出てみろよと言われたので、電話に出ることに。
「・・・・もしもし?」
相手からの返事は全くない。
それどころか、テレビの砂嵐のような雑音がずっとするだけだった。
「いたずら電話か?」
そう翔太が聞いてくる。
「わからない。とりあえず、スピーカーにしてみる」
俺はみんなにも聞いてもらおうとスピーカーにして、再度話しかけた。
「もしもし?聞こえてますか?どちら様ですか?」
やはり雑音しか聞こえない。
いたずら電話だろうと思い電話を切ろうとしたとき、翔太が言った。
「おい、かすかにだが何か聞こえるぞ」
そういうので改めて耳を澄ませて雑音の中から聞こえるものを聞いてみる。
ザザー、ザザザー、「・・・・・連れってって・・・・」
今度は全員にその言葉がはっきりと聞こえた。
その瞬間、うわぁーと叫び俺たちはスマホから離れた。
「おい、なんだよこれ!」
パニックになった翔太が大声で俺に問いかける。
「俺だって知らねぇよ!!」
同じくパニックになった俺は大声で叫び返す。
スマホからは相変わらず雑音と、連れてってという声がしきりに流れてくる。
俺はスマホを手に取り通話を切った。
「はぁ、はぁ、はぁ」
俺の額にはまたもや大量の脂汗が浮かんでいた。
「和也、お前今日の放課後予定空いてるか?」
「あぁ、俺はいつでも開けれるから全然問題ない、どうした?」
「俺の知り合いに霊感が強い人がいて、除霊とかしてくれるんだ。放課後、その人のところに行こう。」
翔太はとても心強い言葉をくれた。
「あぁ、行こう。」
その言葉のおかげで心がいくらか軽くなり、ホッとする事が出来た。
安心するのはまだ早いが、放課後にはこの不気味な奴から解放されるのかと思うと、涙が出そうだった。
「お兄ちゃん、私も行く!ありさちゃんも一緒に行こう?」
茉奈はそう言い、友人のありさちゃんにも声をかける。
「うん、このことが嘘じゃないってわかったし、この電話を聞いたらみんな言ったほうがいいかなって思うから、行くよ。」
「みんな、俺のせいでこんな面倒ごとに巻き込んでごめんな・・・」
俺は申し訳なくなりみんなに頭を下げた。
「こんなに悩んで苦しんでるお前なんかもう見たくないだけだ、気にすんな」
そう翔太は微笑みながら声をかけてくれた。
本当にこいつが親友でいてくれてよかったと思う。
放課後、俺たちは翔太に紹介された人の場所へ向かった。
すぐにお堂のような場所に通されて霊視が始まる。
霊視の結果、赤いロングコートの女は俺に憑りついているという事で間違いないとのこと。
どうやら、地縛霊としていたものが成仏できないまま悪霊となり、元々霊感が強く霊派が同調した俺に救いを求めて憑りついてしまったとのことだ。
彼女は悪霊となってしまったものの、俺たちに危害を加えるつもりは今のところないのだそうだ。今のところ・・・。
彼女は当時の彼氏にその場に置き去りにされて、そのまま近くにある用水路へ転落、亡くなってしまったらしい。
「確かに、昔そんな事件があったって爺さんから聞いたことがあるな」
そのことを聞いた翔太がそうつぶやいた。
おそらく連れてってというのはその彼氏か家族のもとに帰りたかったのであろうとのこと。
そりゃあ、いきなりあんな山の中に置き去りにされて死んだんなら、帰りたいよな・・・・
彼女のことを思うと少し可哀そうになってきた。
俺に憑りつきここまで来たのも何かの縁であろうと思い、俺は除霊を受けながら彼女が無事に成仏してくれることを願い続けた。
願わくば、彼女が生まれ変わった先で幸せに暮らせますように。
1時間ほどで除霊は完了し、俺たちは薄暗くなった道を帰路に就いた。
帰る直前「君は霊感が人よりもかなり強くて霊を取り込みやすい体質のようだ。今回のようなことがもしかしたら今後もあるだろう、気をつけなさい。」
そういい、霊媒師の方からお守りのようなものを貰った。
これでまた明日から平和な日常を送る事が出来る。
「みんな、本当にありがとう。俺一人では何もできなかったし、もしかしたら茉奈や翔太、ありさちゃんによくないことが起こっていたかもしれない。本当に助かったよ。」
帰路につきながら俺はみんなに改めてお礼を言った。
分かれ道でみんなと別れ、俺は茉奈と一緒に家へと向かい歩く。
「お兄ちゃんのあんな姿見たの初めてだから、本当にびっくりしたし何より怖かったよ。」
「怖かった?」
「うん、なんかさ、いつもは優しいお兄ちゃんの表情があんなに変わったのを見たことなかったから、人が変わってしまうんじゃないかって不安になった。」
「確かに、今回ばかりは恐怖と不安しかなかったからなぁ~。解決策なんて何も浮かばなかったし、憑りつかれているとも思ってなかったから焦ったよ。」
俺は笑顔で茉奈にそう答えた。
「お兄ちゃん、久しぶりに笑ったね。」
そういい茉奈は安心したような笑顔で俺に微笑み返してくれた。
そういえば、あの赤い女と出会ってからというもの、あの女の事ばかりを考えていて笑う余裕すらなかった気がする。
帰宅後俺たちは夕飯を食べてそれぞれの部屋へ戻る。
「お休みお兄ちゃんん、ゆっくり休んでね。」
「あぁ、ほんとありがとうな。お休み茉奈」
お互いに声を掛け合い俺は自分の部屋へ入る。
あの赤い女と出会ってから今日まで、なんかあっという間だったなぁ。
俺は物思いにふけながら眠りについた。
深夜3時
俺はガサゴソと足元で音がするのに気が付いて目が覚める。
茉奈のやつ、もしかしてこんな夜中に俺の部屋を漁りに来たのか?
なんて非常識な妹だ。
そう思い、そこにいるであろう茉奈に声をかけるために布団から起き上がろうとするが体が動かない。
「え・・・体が動かない、なんで?」
俺が起きた様子に気付いたのか、ガサゴソと部屋を漁っていたであろう人影はゆっくりと立ち上がる。
「おい茉奈、今真夜中だぞ。いくら兄妹とはいえ時間をもう少し考えてから入って来いよな~」
そう声をかけるが返事はない。
俺は改めて人影を見る。茉奈じゃない、母さんでも父さんでもない。
「お・・・おまえ・・・まさか・・・」
その人影の正体に気付いた俺は震えた声でつぶやく。
「なんで・・・確かにお前は夕方に・・」
人影は足元から俺の枕元へゆっくりと近づいてくる。
「やめろ、くるな・・・」
必死に逃げようとしても体が動かない、それどころか声も出なくなり息苦しくなってきた。
「・・・・つれってって・・・」
「ん・・・んんん~~~~!!!!!」
俺は女に口をふさがれまともに息が出来ない。
この女は一体俺に何を望もうというのか。
「あなたが、私を天国に連れて行って・・・・ねぇ?」
それ以来、あの赤い女は未だに俺のそばにいるが、俺は誰にもそのことを言えないままでいる。
翔太や茉奈は俺の中に赤い女がいることを気づいてはいない。
いや、気づかせてしまっては必ず何かしらの危害が及ぶであろう。
俺は覚悟しなければならないのだ、この女とは死ぬまで一緒であるという事を・・・。
【恋愛】しょっちゅう家に押しかけてくる幼馴染が俺の手料理を食べて恋をした
俺の名前は和也、現在高校2年生だ。
高校に通っているのだが、部活はしておらず帰宅部のため学校の授業が終わればすぐに帰宅している。
「和也~、ご飯まだ~??」
俺の部屋のベッドに寝っ転がり、漫画を読みながら声をかけてくる女の子。
この子は幼馴染のあやせ。
親同士が幼馴染であり、近所に住んでいるという事もあって家族ぐるみで仲が良い。
アルバムを見返してみると、俺の記憶には無いのだが保育園時代から気が付いたら一緒に写真に写っていた。
あやせは同じ保育園に通ってはいなかったのだが、あやせの妹や弟が俺と同じ保育園に通っており、運動会などがあると一緒に来ては俺たち家族とご飯を食べていた。
「はいはい、これから作るから少し待ってな」
俺が帰宅部なのは少し事情があって、両親が共働きであり早朝から夜までは不在となるため、俺が家事や料理を担当しているからだ。
「さて、今夜はあやせの好きなサバの味噌煮とサラダ、スープを作るか・・・」
あやせは高校に入ってからというもの、頻繁に俺の家に遊びに来ては夕飯を食べている。
キッチンに立ち食材の仕込みと調理をしていると、俺の部屋でゴロゴロしていたはずのあやせが降りてきた。
「和也、今夜の晩御飯は何を作るの?」
「あぁ、こんやはあやせの好きなサバの味噌煮を作ってるよ、ちょうどサバがあったからね」
「やった!和也ってホントに料理上手でなんでも作れるよね~。」
「まぁ、小学4年生から料理してるからね。母さんに教えてもらったおかげである程度の品なら作ることは出来るよ、最近はもっとレパートリーが欲しくてレシピ本も読み漁ってるし」
そうあやせと談笑しながらも手際よく料理を作っていく。
「ほんと、将来結婚するなら料理上手な旦那さんがいいよね~。毎日おいしい料理が食べれるんだし!」
「俺はお前が料理をするという選択肢を持たないことに感心するとともに、幼馴染として不安すら覚えるぞ・・・。」
料理が好きな俺とは正反対で、料理が大の苦手であるあやせ。
学校での成績はトップクラスで常に1位を取り続けるだけの頭脳と、幼少からのピアノ教室通いや中学時代の吹奏楽部で培った音楽スキル、持ち前の運動神経の良さで周りからはパーフェクトウーマン扱いされているのだが、なぜか料理だけは一向に上達しない、というか勉強をしようとしないためろくに料理を作る事が出来ないのだ。
「ほんとに料理さえできるようになれば完璧なんだがなぁ・・・。」
「いいのいいの~。料理できない分和也が作ってくれるし、ここに来れば食べれるんだから問題なし♪」
「いずれ1人暮らしになった時に後悔すると思うぞ。」
「それに比べて和也はすごいよね、成績もトップクラスだし運動も料理もできるし、まぁ・・・顔はいまいちだけど笑」
「ほっとけ!!!ほら、もうすぐ出来るぞ。」
他愛もない会話をしながら料理をすること約40分、今夜の夕飯が完成した。
両親が帰宅するのはもう少し遅くなるはずだから、俺とあやせで先に食べることに。
「いただきま~す」
あやせはいただきますの直後間髪を入れずに大好きなサバの味噌煮を頬張る。
「う~~~ん、しっかり味が染み込んでてホクホクフワフワで美味しい~!」
あやせは満面の笑みを浮かべながらご飯を頬張っている。
なんやかんや言いながらも、俺は美味しそうにご飯を食べてくれるあやせを見るのが好きだった。
そんな幸せそうなあやせを眺めてから、俺も改めて夕飯を食べる。
「いただきます」
最初にスープを飲んでみる、簡単な卵スープだがとても落ち着く味に仕上がっている、合格点だな。
次に本命のサバの味噌煮を食べてみる。
「うん、今回は調味料とショウガの量もいい感じに決まってる、前回作ったやつよりかは美味しいな」
そんな独り言をつぶやきながら食べる俺を眺めて、あやせが口を開く。
「でもさ、そんなことを言いながらも和也って満足そうな顔をしてないよね。こんなに美味しいのに、何か不満でもあったの?」
さすが幼馴染、顔には出していないつもりだったが今回作った品に俺が満足していないことが分かったようだ。
「うん、美味しいのは美味しいんだけどさ、これをお店で出すとしたらこんなクオリティーでお客さんが満足してくれるんだろうかっていつも考えててさ。あやせの親父さんが作ってくれた料理はもっと深くて、感動さえ覚える味だったから」
そう、あやせの親父さんは料理人であり、俺が料理に目覚めるきっかけを作ってくれた人物でもある。
あやせの親父さんはお店を切り盛りしており、昔から何度も通っているのだが、そこで食べる料理はどれも美味しくて、食べ終わったときには満腹感と幸福感を覚えるほどだった。
その気持ちが忘れられなくて、俺もいつかは料理の道へと進み、あやせの親父さんと同じように料理で人を感動させれるような料理人になりたいと思っている。
「確かにお父さんの料理も美味しいけど、私は和也のだって引けを取らないくらい美味しいと思ってるけどなぁ。うまく言葉には言い表せないけど、和也のご飯からは食べる人を思いやる優しさがあふれてるっていうか・・・私は和也の味、好きだよ?」
いつもは勝手にご飯を食べに上がり込んできておいしいを連呼しながら気が済むまで食べ散らかすだけのあやせが今日はやけに真剣な表情でそう伝えてきた。
「あやせにそんな感想言ってもらえたのは初めてだな。今の言葉は作る立場からするとすごくうれしいよ。」
親以外に初めて料理を褒めてもらえたので、嬉しくもあり少し気恥ずかしかった。
俺は中学のころからあやせに片思いをしていた。
高校に入ってあやせが料理を頻繁に食べに来るようになって、もっと美味しい料理を作ってあやせを喜ばせてあげたいという気持ちが大きくなり、あやせに気づかれないようにこっそりと料理の勉強をしていた。
おかげで中学の時とは格段に腕を上げていたのだが、それでも自分自身を満足させる料理を作る事が出来ずにいて少し心が折れかけていた。
「・・・和也はほんとにすごいよね。うちの学校は進学校だから料理なんて専門で習うことも無いのに、努力してここまで美味しい料理が出来るようになってさ。私なんて学校で習った事をひたすら復習して成績がトップであり続けること以外何のとりえもない。」
「いや、それだけでも十分すごいやつなんだが・・・」
「ううん、こんな程度じゃ和也には釣り合わないし、勝ててもいないよ。だって和也はそれ以外のことでこんなに努力をしてちゃんと結果を出してるから。」
いつも天真爛漫なあやせが今日はやけにおとなしい気がするな。
それに、釣り合わないってどういう事なんだろうか。成績ではあやせが1位、俺が常に2位だから俺に勝ってるんだし、容姿もよくて才色兼備なすごいやつとしか思えないんだが・・・。
「私ね、ずっと和也のことが好きだったの。いえ、今も大好き。だから、和也のそばにいても恥ずかしくない女の子でいようと思って勉強とかを頑張ってきたの」
「へぁ!???!?」
突然のあやせの告白に俺は思わず変な声を出してしまった。
しかし、そんなクル〇ッコみたいな鳴き声の俺をきれいに無視してあやせは続ける。
「中学時代に野球を頑張る姿とか、一緒に生徒会活動を楽しくする姿とかを見て、和也と一緒って楽しいし落ち着くし、野球を頑張る姿カッコいいなぁって思ってた。高校も同じ学校を受験して合格できたのも嬉しかったし、今もこうやって同じ時間を過ごせることがとても幸せなの。」
あやせの告白を聞く俺の顔は、自分でもはっきりとわかるくらい赤くなっていた。
それはあやせも同じだった。
「和也、顔真っ赤だね。笑」
「でもね、私がもっと好きになったのは和也の手料理を食べてからなの」
「俺の手料理・・・?」
「うん、私が初めてご飯を食べに来た日の事、覚えてる?」
そういわれて初めてあやせがうちにご飯を食べに来た日のことを思い返してみる。
忘れもしない、中学3年生の部活動を引退後、生徒会活動で帰宅が遅くなった日の事だ。
確か、文化祭の準備で寒い日に夜遅くなって、あやせの両親がすぐに迎え来れないからってことでウチでご飯を食べて送っていったんだよな。
そんなことを思い返しながら、俺はあやせに返事をした。
「うん、はっきり覚えてるよ。中学3年の時文化祭の準備で帰りが遅くなった日だろ?あやせがうちに来て、俺が晩御飯作るって言って親子丼を作ったんだよな」
「そう。その時初めて和也が家で毎日のように料理をしてるってことを知ったの。和也の作ってくれた親子丼、とても美味しくて暖かくて、優しかった」
あやせ曰く、その時食べた俺の手作り料理が、あやせの中にある俺が好きという感情を一気に爆発させてしまったらしい。
「正直、お父さんの料理をたくさん食べてきた私は、並大抵の料理では美味しいと思う事はあってもそれ以上の感情が出ることはないだろうって思ってた。それくらいお父さんの料理はすごいし、美味しかったから」
「確かに、あやせの親父さんは有名フレンチ店を何件も渡り歩いてきた凄腕だけあって、作る料理はどれも美味しいの域を超えてるからなぁ・・・。あの料理を食べていつか同じようにって思った俺もどうかしてるのかもしれないが」
「でも、和也の親子丼は美味しかったし、確かに優しさを感じたの。食べた人に満足してほしい、美味しく味わって幸せになってほしいっていう和也の優しさがあった」
「それは、あやせに満足してほしかったからな。好きな人に美味しい料理を食べてほしいって思うのは、当然だろ?」
「え?それって・・・・」
「あぁ、俺はあやせが好きだよ。勉強も運動も音楽もできて天真爛漫でいつも楽しそうに笑っててさ。俺はあやせのことがずっと好きだった。初めて親子丼を食べてもらったときのあやせの本当に美味しそうな顔は今でもしっかりと覚えてるよ。それで、あやせにもっともっと美味しい料理を食べさせてあげたいと思って、そこからまた料理の勉強を必死に始めたんだ。それは料理人になりたいっていう夢をかなえるためでもあったんだけど、あやせの美味しくご飯を食べる幸せそうな顔がもっと見たいと思ったからさ」
俺はこれまで心の中でいただいていたあやせへの思いを口にした。
あやせは俺の言葉を聞いて目に涙を浮かべている。
俺はそのまま言葉をつづけた。
「あやせ、君のことが好きだ。俺と付き合ってくれないか?」
「私、和也みたいに料理できないよ?そんな私で本当にいいの?」
「料理ならこれからいつでも教えてやるさ。料理が出来るかできないかなんて関係ないよ。俺はあやせが好きなんだからさ」
「うれしい・・・。私でよければ是非お願いします」
あやせは涙を流しながらも満面の笑みを浮かべて俺に頭を下げた。
こうして、俺の料理と俺のことが大好きな幼馴染は晴れて俺の恋人となった。
付き合い始めてからの俺たちの日常は大きく変わることはなかったのだが、その中でも唯一変わったことがある。
「和也~、晩御飯まだ~?」
「お前はうちに転がり込んでくるとその言葉を発さなければそれ以外の言葉が出ない呪いにでもかかってるのか?」
「えへへ~、だって和也のご飯は美味しいからさ~」
相変わらずの間延びした声でそう返事するあやせ。
「今夜は少し冷えるからな、シチューとコロッケを作ろうかと思ってる」
「おぉ、今日も美味しそうなメニューですなぁ~。ねえ和也、私も料理手伝っていいかな?」
「もちろんだ、むしろ手伝ってくれると助かる」
「やった!和也と料理するのって楽しいから下手にデート行くより幸せな時間なんだよね~。」
そういいながら俺のタンスからあやせのエプロンを取り出してあやせはエプロンを装着した。
「待て待て待て待て!!なんで俺のタンスの中にお前のエプロンが収納してあるんだ!?!?」
部屋の俺が知らない間にいつの間にかタンスに収納されたエプロン、マジでどうなってんだ・・・?
「この前和也のお母さんに相談したらタンスに入れとけばいいよって言われたから勝手に入れちゃった♪」
「入れちゃった♪じゃねえよ!!はぁ・・・まあいいや」
観念した俺は身支度を済ませたあやせとともにキッチンへ向かう。
告白した後からあやせは料理を勉強してみたいと俺の家に転がり込んでは少しづつではあるが料理を作るようになっていった。
「いつか私の愛がたくさんこもった手料理を和也にごちそうするんだから、楽しみにしててね?」
「あぁ、あの親父さんの血が流れてるあやせの料理だ。楽しみに待ってるよ」
天真爛漫才色兼備な俺の彼女は、今日も元気に料理を作っている。